みんぱく e-news
編集・発行:大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国立民族学博物館  ホームページ編集事務局
みんぱく e-news (62号)
http://www.minpaku.ac.jp/ 2006.08.16
・Contents・
【1】World Watching from Paris
【2】みんぱくゼミナール「展示場の資料を数える」
【3】企画展「みんぱく昆虫館」開催中
【4】企画展「さわる文字、さわる世界」開催中
【5】みんぱく秋の遠足・校外学習 事前見学&ガイダンス
【6】研究公演 特別展「更紗今昔物語─ジャワから世界へ─」関連事業
    ファッション・ショー:アフリカン・プリントの世界
【7】国際シンポジウム「ユニバーサル・ミュージアムを考える」
【8】みんぱくのオタカラ
 ☆編集後記
【1】World Watching from Paris
●ケ・ブランリー美術館の開館
吉田憲司(文化資源研究センター)
今年、2006年の6月、パリに新しい美術館が開館した。ケ・ブランリー美術館である。この美術館は、これまで、人類博物館(Musée de I'Homme)と国立アフリカ・オセアニア美術館(Musée National des Arts d'Afrique et d'Océanie)に収められていたコレクションを統合し、新たなコレクションも加えて、非西洋の芸術と文化、とくに「アフリカ・オセアニア、アジア、南北アメリカの芸術と文化のための美術館」として新設された。これにともない、人類博物館と国立アフリカ・オセアニア美術館は、それぞれ再編、閉鎖されることとなった。計画初期には、「基礎美術館」(Musée des arts premiers)あるいは「基礎文明美術館」(Musée des arts et des civilizations premiers)といった名称で呼ばれたこの美術館は、「基礎美術」という語が、未開美術や原始美術といった用語と同様に、それらの美術が人類の美術の初期の段階に留まっているといったイメージをいやおうなく喚起することを考慮し、最終的に、美術館が位置する地名を取って、ケ・ブランリー美術館と命名された。しかし、シラク政権の文化政策の目玉として建設された美術館だけに、パリ市民のなかには、この美術館を「シラク美術館」と呼ぶ人びとも多い。

6月20日、私は、同じ民博の大森康宏教授とともに、この美術館のオープニングに参列した。美術館は、エッフェル塔を間近に臨むケ・ブランリーの地に、セーヌ河に寄り添うようなかたちで築かれている。建築のデザインは、同じパリのアラブ世界研究所の設計でも知られるジャン・ヌヴェルの手による(参考サイト写真1)。建物の外、セーヌ河の側には密な植栽が施され、窓ガラスも木の葉の模様で彩色されている。意図的に「密林」をイメージさせようとしていることがうかがえる。一方、建物の反対側、エッフェル塔側は、一面大きな透明ガラスで覆われ、植栽もほどこされていない。中に入ると、それが、エッフェル塔を指呼の間に望むための仕掛けであることが納得される。

オープニング・セレモニーは、盛大であった(参考サイト写真2)。アナン国連事務総長の祝辞に続き、シラク大統領が自ら新しい美術館の目的と役割について熱弁を振るった。参列者は300人くらいだろうか、世界各地の博物館・美術館関係者や人類学者の姿がみえた。レヴィ・ストロースの姿もあった。もう98歳になるはずであるが、かくしゃくとしている。父・マルセル・グリオールの跡を継ぎ、西アフリカのドゴン社会の研究を続けてきたカラム・グリオールも参列していた。また、イギリスの人類学者メアリー・ダグラスも、年齢を感じさせない元気な姿をみせていた。オープニング・セレモニー自体が、「人物の博物館」の趣を呈していた。

シラク大統領の演説は、よく練られていた。「世界の芸術と文化に優劣は存在しない」とし、新しい美術館が、「文化を超えた対話の場となる」ことを謳うものであった。オープニング・セレモニーの後、私は、その大統領の言葉を反芻しながら、美術館の館内をめぐった。

展示場は2階に位置している。1階から2階へと続く細長いアプローチは、純白にしあげられ、その先の真っ黒なトンネルを抜けると、薄暗い展示室にたどり着く。展示室は、アフリカやオセアニアといった地域で分けられているが、間仕切りの高い壁はなく、いずれも、西アフリカの内陸部でよくみかける泥壁をおもわせる低い塀で仕切られている。展示物は、大部分ガラスケースに入れられ、その正面の側には解説のパネルやキャプションがいっさいみられない。展示物の解説は、ガラスケースの側面に添えられている。「作品」の美的鑑賞と、その文化的背景の理解とを混同せず、明確に分離するための意図的な配慮だという(オープニング・セレモニーの翌日開催されたワークショップでの、元教育研究部長モーリス・ゴドリエの発言による)。展示されているものは、上述のとおり、旧・人類博物館や、旧・アフリカ・オセアニア美術館の所蔵品であるから、その多くは、19世紀末から20世紀の前半までに収集されたもので占められている。現代の作品は、まったくといってよいほど含まれていない。

真っ白なアプローチと、泥塀で仕切られた暗い展示室。森林の模様で覆われたガラスの外に「密林」が広がるセーヌ川の側と、透明で開放的なガラスで覆われ、どこからも塔を仰ぎ見ることのできるエッフェル塔の側。美的鑑賞と文化的理解の分離。ケ・ブランリー美術館には、こうした明確な2項の対立がいたるところに組み込まれている。その両者をつなぎ、「対話」を実現する場として、この美術館が構想されたということなのであろう。しかしそれは、同時に、西洋と非西洋、ヨーロッパと「アフリカ・オセアニア、アジア、南北アメリカ」の区別を前提とした考え方であることも事実である。率直に言って私にはそれは、西洋と非西洋のあいだに今一度「文明」と「未開」という区別を設定し、アフリカ・オセアニア、アジア、南北アメリカを改めて「未開視」(primitivize)するものに思えてならなかった。

もとより、同じパリのルーヴル美術館には、2000年の4月に「アフリカ・オセアニア、アジア、南北アメリカ」の展示室が開設され、地域と文化の区別なく、世界の芸術を総覧する場が設けられている。また、ケ・ブランリー美術館には、中国や韓国、日本の各時代の美術作品は収められていないが、それは、それらの美術に特化したギメ美術館が既に存在するということで説明されるであろう。いわば、これまで、必ずしも正当に評価されることのなかった地域の芸術と文化に焦点をあてた美術館を築くことで、それらの地域の芸術と文化を再評価し、パリ、あるいはフランス全体として、世界の芸術と文化を等し並みに遇しようというのが、ケ・ブランリー、あるいはフランス政府の側の主張である。そうした目的が、果たして、このケ・ブランリー美術館を通して実現できるのかどうか。西洋と非西洋の区別を極端なかたちで視覚化した建物と展示が完成した今、その区別を相対化し、文化の壁を乗り越えていく試みが、ケ・ブランリーのスタッフたち ―その中には館長をはじめ、私の知己も多く含まれている ― のこれからの活動に求められている。

◆参考サイト
▽▲吉田憲司(文化資源研究センター:教授)
   http://www.minpaku.ac.jp/staff/yoshida/
▼△参考写真
   http://www.minpaku.ac.jp/e-news/62photo.html
▽▲ケ・ブランリー美術館ホームページ
   http://www.quaibranly.fr/
▼△外務省ホームページ「各国・地域情勢 > フランス」
   http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/france/index.html
【2】みんぱくゼミナール「展示場の資料を数える」
民博の展示場には資料がいくつあるでしょうか?一見なんでもないこの問いに正確に答えることはそう簡単ではありません。このことをきっかけに、標本資料を情報化するむずかしさとおもしろさについてお話しします。
講師:山本泰則(文化資源研究センター助教授)
日時:8月19日(土)13時30分開演
場所:民博 講堂
参加方法:聴講無料。事前のお申し込みは不要です。
【3】企画展「みんぱく昆虫館」開催中

みんぱくにひそむ昆虫たちがぞろぞろぞろり
人間どものフィールドワークにそろそろそろ〜り

会期:2006年7月13日(木)〜9月5日(火)
会場:国立民族学博物館 常設展示場内
・昆虫標本を描いてみよう
日時:8月19日(土)13時30分〜16時30分
定員:20名(事前申込必要)
対象:小学生以上 参加費:無料
・おりがみで遊ぼう! みんぱく昆虫館(ミュージアムパートナーズ主催)
簡単な昆虫を折り紙で作ります。
日時:8月26日(日)13:00〜13:50/14:00〜14:50/15:00〜15:50
会場:本館1階エントランスホール
受付:当日12時より会場にて、各回10名まで
参加費:無料
・竹で昆虫模型を作ろう
日時:8月27日(日)1回目:13時〜14時/2回目:15時〜16時
定員:各回20名(事前申込必要)
対象:小学校高学年以上 参加費:300円(保険料込)
指導:国立曽爾青少年自然の家
※「おりがみで遊ぼう!」以外のイベントは常設展の観覧料が必要です。
毎週土曜日は、小学生・中学生・高校生は無料で観覧できます。
お問い合せ、申し込み先:展示事業係 06-6876-2151(代表)
【4】企画展「さわる文字、さわる世界─ 触文化が創りだすユニバーサル・ミュージアム─」開催中
「あなたもさわれる展示」ではなく、「あなたがさわる展示」。
本企画展では、さまざまな物に直接さわることから、現代人に軽視されがちな触覚のおもしろさに迫ります。見ることが中心だった従来の博物館を抜け出し、さわる宇宙の広がりを実体験しましょう。
開催期間:2006年3月9日(木)〜9月26日(火)
会場:常設展示場内
★関連イベント
 ※事前申し込みが必要です。定員になり次第、締め切らせていただきます。
   http://www.minpaku.ac.jp/museum/exhibition/shokubunka/event.html
・「木で作ろう」(清水政和氏の廃材を活用する工作教室)
日時:8月26日(土)10:30〜16:30
材料費:300円(保険代含む。)
対象:小学校4年生以上
定員:15名(事前申し込みが必要。定員になり次第締め切ります。)
注意:昼食は各自でご用意ください。
・「木で遊ぼう」(清水政和氏の「気持ちいい木の話」+木の感触を楽しむ会)
日時:8月27日(日)10:30〜12:30
対象:どなたでも参加いただけます。(視覚障害者の方歓迎します。)
※上記催し物の参加費は全て無料(材料費が必要なものあり)ですが、常設展観覧料が必要です。ただし、土曜日は小学生・中学生・高校生の無料観覧日です。
お問い合せ、申し込み先:展示事業係 06-6876-2151(代表)
            メールアドレス:sawaru@idc.minpaku.ac.jp
【5】みんぱく秋の遠足・校外学習 事前見学&ガイダンス
学校の先生方に博物館の活用法、展示見学コースや学習プログラムのご紹介、施設利用や遠足などの団体利用に関する説明などのガイダンスを開催いたします。
ホームページより申込書をダウンロードし、ファックスにてお申し込みください。
詳細はホームページをご覧ください。
実施日:2006年8月29日(火)/31日(木)/9月1日(金)/4日(月)
実施時間:各日3回(14:30〜15:00/15:00〜15:30/15:30〜16:00)
会場:第7セミナー室・第3セミナー室(本館2階)
【6】研究公演 特別展「更紗今昔物語─ジャワから世界へ─」関連事業
    ファッション・ショー:アフリカン・プリントの世界
2006年9月7日より特別展「更紗今昔物語 ─ ジャワから世界へ ─」が開催されます。アフリカン・プリントは、西アフリカや東アフリカの各地でファッション素材として使用されているプリント更紗で、この特別展では、主要な展示資料のひとつとして、数多くのアフリカン・プリントを紹介しています。

研究公演では、Pese Peseが演奏するアフリカの音楽を背景に、京都造形芸術大学の学生たちがくりひろげるファッション・ショー、スライド・ショーによって、身体にまとわれた状態のアフリカン・プリントを紹介するとともに、パネル・ディスカッションによってその類いまれなテキスタイル・デザインの創造性の根源を探ります。
実施日:2006年9月23日(土・祝)13:30〜15:30(13:00 開場)
会場:講堂
パネラー:大野木啓人(京都造形芸術大学教授)・吉本忍(民族文化研究部教授)
ファッション・ショー:京都造形芸術大学学生
演奏:Pese Pese
定員:450名
参加料:無料(特別展・常設展をご覧になる方は観覧料が必要です。)
参加方法:往復はがきに住所・氏名(返信用おもてにも)・年齢(任意)・電話番号・参加希望人数(4名まで)を明記のうえ「9月23日研究公演」と書いて下記までお申し込みください。
9月7日(木)当日消印有効。(応募者多数の場合は抽選)
お申し込み・お問い合わせ先:
 〒565-8511 吹田市千里万博公園10-1 国立民族学博物館 企画連携係
 TEL:06-6876-2151(代)
【7】国際シンポジウム「ユニバーサル・ミュージアムを考える
             〜“つくる” 努力と “ひらく” 情熱を求めて 〜」
博物館とは、さまざまな意味での共生を実践するフィールドです。本シンポジウムでは、ユニバーサル・ミュージアム(だれもが楽しめる博物館)のあり方を多角的にとらえ、今後の新たなる博物館を“つくる”努力、“ひらく”情熱を民博から発信します。
日時:2006年9月23日(土)・24日(日)
会場:国立民族学博物館 第4セミナー室
主催:国立民族学博物館
後援:財団法人日本博物館協会、全日本博物館学会、
   日本ミュージアム・マネージメント学会
参加方法:定員70名(申込み先着順) 参加無料 詳細はHPをご覧ください。
【8】みんぱくのオタカラ
加藤謙一(機関研究員)
http://www.minpaku.ac.jp/staff/kato/
●蚊遣り具(企画展「みんぱく昆虫館」)
 標本番号:H0015544(愛知県)、H0015582(東京都)、H0016517(宮崎県)、
      H0016798(高知県)、H0018624(鹿児島県)

熱帯夜続きの近頃、ただでさえ寝苦しいのに耳元にやってくる「ブ〜ン」という高い羽音はいやなものだ。この寝床への侵入者の正体はご存じ、蚊である。蚊は刺されたときのかゆみばかりでなく、日本脳炎のようなウィルスの感染源であることもあり、日本では彼らを寄せ付けないための様々な工夫が生活の中で凝らされてきた。その中には、日本のメーカーが開発して世界に広まっている蚊取り線香や、『日本書紀』にも登場し、近年は熱帯地域のマラリア対策に大いに活躍している蚊帳に代表されるように、日本の蚊よけ文化は海外でも着実に受け入れられているのである。

今回ご紹介するオタカラも日本独特の道具といえるが、残念ながら現在では使われることはなくなっている。蚊遣り具は、カビやカブなどと呼ばれ、山仕事などの際に蚊やブヨを寄せ付けないための携帯型の虫除けとして全国的に使われていた。木綿やヨモギをワラで包んで筒状にし、先端に火を付けて腰から下げる。
発生する煙やにおいに虫を寄せ付けない効果があった。火が服に燃え移るのではと心配になるが、ぶら下げる位置を変えたり、服と蚊遣り具の間に木や竹を挟むなどの工夫をしていたそうだ。これらの蚊遣り具は現在開催中の企画展「みんぱく昆虫館」でご覧いただくことができる。人類がその生活から虫を遠ざけようとしてきた営為の一端を会場でご確認いただきたい。

ちなみに大手蚊取り線香メーカーの方から聞いた話によると、欧米では虫除けといえばスプレー式の殺虫剤を使った一時的な対処が一般的なようで、蚊取り線香のように部屋で煙を発生されて蚊の嫌う環境を作り出すという方法はなかなか受け入れられないのだそうだ。日本の「焚く」虫除け文化は、蚊遣り具以降も蚊取り線香や最近の殺虫液を気化させるタイプのものにも受け継がれている。そこには虫除けをめぐる文化の違いが横たわっているようで興味深い。

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☆編集後記
気候変動や地球温暖化は、熱帯低気圧の発生頻度の増加や規模の拡大に影響を与えているというが、災害には至らなくとも、時には体温よりも上昇する猛暑には閉口する。もちろん夏は暑いに決まっており、暑くない夏はそれなりにいろいろと支障をきたす。炎天下で戦う高校球児たちの姿は、このまま夏の風物詩であり続けてほしいが、いくら鍛えているとはいえ、度を超す暑さの彼らの健康への影響が心配だ。
林 勲男
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