国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱくのオタカラ

今月の見てみんサイト  2003年1月29日刊行
山中由里子

● 世界にはばたく、美少女戦士

World Watchingでラオスのタイ語版「セーラームーン」が紹介されたので、世界各国におけるセーラームーンの受容を採り上げることにしたのはいいが、このシリーズの日本語版すらまともに見たことのないど素人である。うかつに侵してはならない、聖域的ですらあるマニアックなサイトに迷い込み、収拾がつかなくなる危険性を大いにはらんだ企てであった。

とりあえず、各国版の解説をがんばって作っている日本製のサイト
<http://www.sailormoon.jp/~chibiusa/world/index.htm>
を入り口に、恐る恐るリンクを辿っていくと、
“SOS(Save Our Sailors)”という国際キャンペーン
<http://www.iwaynet.net/~sos/sos.html>(本部)
が繰り広げられていることを知った。

「我らの水兵を救え!」って、対イラク戦争反対のスローガンではない。「暴力的」または「性的に露骨」というような批判、検閲、またはテレビ局の勝手な番組中止からセーラームーンを守り、全エピソードをノーカットで放映せよ、という熱烈ファンの国境を越えた運動のようである。
1996年にアメリカでの放映が一時キャンセルされた際に始まった署名運動が発端になっているらしい。

詳しい経緯は:
<http://pei.physics.sunysb.edu/~ming/dau/sos/whycancel.html>

欧米のみならず、ロシア、ルーマニア、トルコ、カナダの仏語圏ケベック地方版まである。各国のSOS運動へのリンクはこちら。
<http://www.iwaynet.net/~sos/international.html>

実は私が最も知りたかったのは、「月に代わって、おしおきよ!」というキメ台詞が、各国語でどう訳されているかだ。一目でわかるサイトは、あいにく見つからなかった。最初に入った日本語での紹介サイトによると、英語版ではエピソードによって微妙に違うということ。第一話ではちなみにこうらしい。

"I'm Sailor Moon, the champion of justice. And I say, on behalf of the moon, I shall rightwrongs! and triumph over evil, that means You!"

「私は正義の戦士セーラームーンよ!月に代わって過ちを正し、悪に打ち勝つの。あんたが相手よ!」なんだか長たらしくて、ビジネスライクである。

中国の「美少女戦士月光」の殺し文句は、同僚の野林氏に調べてもらったところ、「代替月亮(daiti yueliang)駆逐邪魔(quchu xiemo)」。こっちのほうが、歯切れがいい。「お仕置き」の辞書的訳語である「処罰」という、法的用語のような言葉をあえて避けて、「邪魔を駆逐」というあたりが、「霊幻道士キョンシー的」、というか、道教・仏教的背景がうかがわれる。

「はて、ドイツ語では?」と思い、ドイツSOSにメールを送ったところ、律儀なSaschaさんがさっそく問い合わせに答えてくれた。

"Und im Namen des Mondes werde ich Dich bestrafen"
「月の名において、あんたを処罰してやるわ!」らしい。フランス語吹き替え版でも同じ意味の《Au nom de la lune, je vais te punir!》が使われていると、SOSケベックのKogaratsuさんが教えてくれた。
直訳的な"on behalf of ..."よりも"in the name of ..."というほうが、十字軍の戦士という感じである。

タイ語、トルコ語、ロシア語訳等は問い合わせ中。
美少女戦士比較考、来月号に続く・・・?

Yuriko.Y