国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

アメリカ展示場の全面改装  2003年6月18日刊行
八杉佳穂

昨年の初夏に、地震対策のため、展示場に筋交いを入れる大がかりな工事が決まり、それに併せて、展示場をどうするかということが検討されました。耐震構造柱を据え付けるヨーロッパ、アフリカ、中国の展示場では、地域テーマ展示コーナーを設けることにし、そのほかはかえないことになりました。これに対し、アメリカ展示場では、開館して4半世紀のあいだに、だいぶ古くなってきており、またその間に大量の資料を集め、資料的にも開館時に比べて充実してきましたので、この際、アメリカ展示場を全面的にかえようということになりました。

2001年に答申がでている第2期展示基本構想に則って、展示に携わる研究者と、その展示の対象となっている文化に属する人びと、それにその展示を見るものとしての来館者の三者の間の相互の接触と交流を実現する「フォーラム」の場となることを目標にして、展示される側や展示を見る側の視点と要求を容易に取り込めるよう、コストを考えながら、計画を進めていくことにしました。また、常設展の模様替えは初めてのことなので、展示調整部会を設け、様々な意見を集約するとともに、コンペをして、これから全面的に常設展をかえていくための、大きな視野に立った提案を求めることにしました。コンペの結果、パティオ側に通路をもうけること、そこから自由に展示空間に入っていけるようにすること、各展示場、各コーナーがよくわかるような工夫をすることなどが決まりました。

第2期展示基本構想に従い、展示を基本展示とテーマ展示に分け、2年あまりの短い期間でかえていくテーマ展示では「極北のイヌイット・アート」を扱うことにしました。常設的な基本展示では、人間生活の基本となる衣食住を取りあげることがもっともふさわしいのですが、展示空間の狭さを考えると、住は展示に不向きなところから、代わりに精神世界に関することを展示することにしました。その結果できあがったのが、「食べる─文明を生んだ栽培植物」、「着る─自然や歴史とのかかわり」、「祈る─信仰と芸能の世界」です。それぞれのコーナーに共通する要素として、多様性と重層性があります。さまざま異なる環境に適応していって形成された多様な文化と、基層文化にキリスト教を主とするヨーロッパの文化、さらにはアフリカの文化などが重なって構成される重層的な文化を、栽培植物や衣服、信仰や芸能に関わる品々を通して、理解できるような展示を心がけました。

八杉佳穂(民族文化研究部)

◆参考サイト
アメリカ展示場リニューアル
「極北のイヌイット・アート」