国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

World Watching from Iran  2003年10月15日刊行
山中由里子

● Nobel Peace Prize

2003年のノーベル平和賞がイランの女性弁護士シーリーン・エバーディーさんに授与されることが発表された。女性の平和賞受賞者は11人目になるが、イスラム教徒の女性の受賞は今回が初めてである。このあまり名の知られていなかった人権擁護活動家の選択に、ローマ法王の受賞を見込んで法王特集を組んでいたヨーロッパの新聞など、報道関係者は初め戸惑ったようである。

イランのハタミ大統領も受賞発表の4日後になって初めて記者団に対してこの受賞に関する会見をした。共同通信によると大統領は「同胞の1人がこのような成功を収めたことをうれしく思う」と述べると同時に保守派にも気を使って、「エバディさんがイスラム世界やイランの利益に十分に注意を払うことを希望し、この偉業が悪用されないよう望む」と話した。受賞発表時のインタビューを読むと、候補に挙がっていることすら知らなかった本人が誰よりも驚いている様子がうかがわれる。

1947年生まれのエバーディー女史は、イランイスラーム革命までテヘラン市の裁判官を勤めていた。革命後のイスラーム共和国体制下、非暴力と対話の重要性を唱えて、弾圧を受けている知識人や学生の民主化運動を支援し、特に女性と子供の人権を擁護してきた女史は、自らたびたび投獄されてきた。ノーベル平和賞委員会は授賞理由で「イランで人権と民主主義のために闘っているすべての人々の励ましになることを望む」と述べた。

ヴェールを強制され、男性優位の社会の中で抑圧されているというイメージが強いかもしれないが、イランの女性は実にしたたかで強い。近年特に三十代から五十代の女性がパワーアップしている印象を受ける。私が最近出会った女性研究者はみな大学や図書館、博物館などで重要なポストについて、男性を圧倒する能力を発揮している。エバーディーさんの平和賞受賞は、多くのイラン女性を鼓舞激励するのではないかと、彼女らの今後の活躍を楽しみにしている。

山中由里子(博物館民族学研究部助手)

◆参考サイト
ノーベル賞公式サイト
受賞者による著書などへのリンクもある Nobel Prize Internet Archive