国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

World Watching from Oslo  2005年6月16日刊行
出口正之

● 国際学会の文化

民博の海外出張の報告といえば、どこそこの国の何々民族の話というのが、通り相場だと思いますが、今回はちょっと違った報告をさせて頂きます。89カ国の会員を持つ国際NPO・NGO学会の会長としてオスロでの理事会に出席してきました。

理事会の出席者は筆者を含め、ヨルダン人、メキシコ人、アイルランド人、イギリス人、南アフリカ人(黒人、白人1名ずつ)、ロシア人、米国人、ガーナ人、ウルグアイ人、オーストラリア人、ノルウエー人の13名です。国籍が重なっているのは、南アフリカだけです。その中で、進行役を務めました。日本で理事会というとせいぜい2時間ですが、この理事会は、一日別の研究会を挟んで5日間ありました。今年に入ってから、連日電子メールで、議題の決定、資料作成、事前説明などを会議の準備を行ってきました。日本で言う「根回し」に近いものです。日本の「根回し」が、実際の議論の時間を省くための機能がありますが、ここでの諸準備は、議論をむしろ活発にするためのものです。会議当日までに、膨大な資料を作成し、相互に交換しておかないと、折角、世界中から集まっても何も決まらないということになりかねません。

会議のために、議事進行の様々な規則を作っていますが、もちろん、それは定足数とか、過半数による議決とか、形式的なことばかりであり、実際の会議の運営は、「文化」に依存しています。ちなみに、筆者は政府税制調査会の委員もしておりますが、税調の中にも特有な「文化」があります。それは何も記述されておりませんが、暗黙の了解として現に存在しています。それでは89カ国の学会の理事会の「文化」とは、どのような「文化」なのでしょうか?

驚くことに、これだけの多民族の合意形成は、一言で言えば、「事後的な和を以って貴しと為す」精神です。徹底した議論、その後の多数決、その決定に対する尊重です。会議におけるロバートルールというものがありますが、それが暗黙の前提となっています。このような文化を身につけることも、大事なことかもしれませんね。

出口正之(文化資源研究センター教授)

◆参考サイト
The International Society for Third-Sector Research (ISTR)
非営利法人税制を考えるホームページ(出口正之運営サイト)