国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

World Watching from India   2005年12月15日刊行
三尾稔

● 騒音規制騒動のてんまつ

急速な経済発展を続けるインドで、都市のヒンドゥー祭礼の変容に関する調査を続けている。重要な調査対象の1つにインド西部を中心に人気のあるガルバがある。これは秋の女神祭礼のバリエーションの1つで、ガルバの場合は女神像の前で9日間にわたって毎夜老若男女が行うダンスが中心的な行事となる。インドの人々はダンス好きな上、カラフルな衣装が楽しめ、若い男女の数少ない出会いの場ともなり、さらにこのダンスを使った映画の成功なども手伝って、ガルバは今やインド各地の大都市で人気となっている。

この秋も調査のため西部のグジャラート州を訪れたのだが、今年は準備の熱気に水を差す事態が発生していた。最高裁判所から、どんな行事であれ夜10時以降のラウドスピーカー使用禁止という命令が出たのである。スピーカーを使うならいつもフルボリュームというインドでは、祭礼や結婚式などの行事のたびに耳をつんざく音響が使われ騒音問題にもなっている。この命令もゆえなきことではないのだが、ガルバの場合夜10時頃はまだ宵の口、盛り上がるのは真夜中以降というのが通例である。同州では会場設営業者、ダンス音楽の演奏家たち、ファッション業界等々今やガルバ関連で400億円弱の金が動くという大イベントに成長しているだけに、人びとは大騒ぎ。どこそこの祭礼の実行委員会が行事を取りやめたとか、歌手が国外(今や英米でもガルバは人気がある)に流出するとか、命令撤回を求める動きがあるとか、新聞は連日この命令をめぐる騒動を1面で報じ続けていた。

ところがここに思わぬ助太刀が現れた。この命令ではモスクからスピーカーで夜中のお祈りへの呼び掛け(アザーン)をするのも禁止になってしまうため、ムスリムもこれに反発したのだ。ヒンドゥー、ムスリム双方の反発を受け、結局祭礼開始前日に特例でスピーカー使用が認められることになった。祭礼やアザーンの音がうるさいと互いに非難しあうことの多いヒンドゥーとムスリムが裁判所命令への反発から力を合わせる形になったのも皮肉だが、インドの人々の宗教行事にかける意気込みの熱さを意外な形で再認識させられる騒動であった。

この祭礼の模様はいずれ映像資料として本館でもご紹介する予定である。

三尾稔(民族社会研究部助教授)

◆参考サイト
グジャラート州政府観光局
インド(外務省ホームページ)
在インド大使館