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みんぱくのオタカラ

扇風機をデザイン・ソースとしたプリント更紗  2006年11月16日刊行
吉本忍

特別展「更紗今昔物語―ジャワから世界へ―」では、1000点以上ものアフリカのプリント更紗を展示している。それらのプリント更紗のデザインには、インドネシアのジャワ更紗を摸倣したデザイン、身のまわりの生活用品などをデザイン・ソースとしたわれわれの意表をつくキッチュ・デザイン、エスニック調のデザイン、肖像をモティーフとしたデザイン、宗教的なデザイン、記念日やキャンペーンにちなんだデザインなど多彩である。

今回の特別展を企画するに至ったきっかけは、2000年にアフリカで機織り技術の映像取材をしていたさいに、現地の人たちが身にまとっているプリント更紗のうちに、数々のジャワ更紗を摸倣したデザインを目の当たりにしたことであり、そのときには、とくにキッチュ・デザインのとてつもない面白さにも魅せられた。その面白さは、筆舌尽くし難い。したがって、特別展をご覧いただいてない方には、会期中に是非とも実物をご覧いただきたいと願うばかりであるが、ここではアフリカの各地で収集してきたプリント更紗のうちで、わたしが度肝を抜かれたきわめつけのキッチュ・デザインについて紹介しよう。

それはさきの映像取材のさいに、カメルーンで収集した扇風機をデザイン・ソースにしたプリント更紗である。ただし、そのデザインは扇風機のみならず、扇風機から送り出されている目に見えるはずのない風までも描かれている。カメルーンの商都ドゥアラの市場でその布を見つけたとき、わたしは驚きのあまりとてつもない大声をあげていた。というのも、強い日差しの中を動き回って汗みずくになっていたわたしの肌が、そのプリント更紗に描かれた扇風機から送られてくる涼風を感じたからである。

なお、このプリント更紗はナイジェリア製であるが、特別展の準備のために2005年にオランダのフリスコ社を訪ねたさいに、そのデザインはフリスコ社のデザイナーであったTheo Mass氏が1993年に手がけたものであったことがあきらかになっている。

吉本忍(民族文化研究部教授)

◆今月の「オタカラ」
【1】標本番号:H223539 / 標本名:衣服製作用 染め布(更紗;アフリカンプリント生地)
【2】標本番号:H236124 / 標本名:女性用上衣、標本番号:H236125 / 標本名:女性用衣服/腰布、標本番号:H236126 / 標本名:女性用衣服/頭布

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【1】扇風機と風をあらわしたプリント更紗のデザイン
プリント更紗、衣料用布地(部分)、片面プリント(片面染め)、木綿
【製】ナイジェリア(Nichemtex Industries Ltd.)
【収】カメルーン、現代、544.0cmx115.3cm

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【2】扇風機と風をあらわしたプリント更紗のドレス
プリント更紗、ドレス、片面プリント(片面染め)、木綿
【製】中国?【収】ナイジェリア、現代

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Theo Mass氏とかれが手がけた「扇風機と風」のオリジナル・プリントのサンプル
(2005年:オランダ、ヘルモント)

◆関連ページ
特別展「更紗今昔物語―ジャワから世界へ―」
特別展「更紗今昔物語―ジャワから世界へ―」図録