国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

World Watching from the Philippines  2007年3月14日刊行
ピーター J. マシウス

● ボンドックコレクションの収集

今年2月に民博の協力者のひとりであるローレンス・リード博士がフィリピンのルソン島北部のボントック地域にある小さな山村を旅した。旅行の目的は約50年も親交のある家族と会うことと、今秋9月13日から12月11日に開かれる特別展「オセアニア大航海展:ヴァカ モアナ、海の人類大移動」で使用するさまざまな日用品を展示資料として収集するためであった。これらのものははるか昔、海を越えてフィリピンに渡り、山に移住したかれらの祖先たちから伝えられたものである。

まずリード博士は日用品を購入し日本に持ち帰るため、求めているものとその理由を友人に説明しなければならなかった。何ひとつとして高価なものはないが、全体的にボントックにあるもの(ボントック・コレクション)は歴史的に非常に重要なものである。それはボントック・コレクションが過去数十年間に村が経験してきた大きな文化的変遷をあらわすからである。黒いすすにまみれた古いセラミックの壺、同様にすすに覆われた比較的新しいアルミニウム壺、かつては壁に掛けられていたが、今ではすすをかぶり、ひとつに束ねられている豚の頭蓋骨など多くのものがひとつの台所から、また村中の家々から出てきた。

これらの品々を、フィリピンの首都マニラに続くでこぼこの山道を通って運ぶのは大仕事であった。全てのものを破損することなく運搬するため、前もってマニラで合板、板ねじ、エア・クッション等を用意し山まで持参していた。荷物が一杯に詰まった木箱はゆっくりと運ばれフィリピン国立博物館で降ろされた。その間に、私は民博を代表してこれらの品々を取得し、フィリピン国立博物館で入手した資料の検査・証明をしてもらうため大阪から到着していた。きちんとした証明書がなければこのような品々を日本に輸出することは難しい。(おそらく日本でも税関でチェックがされるであろうが。)

なんらかの生物が木箱の中に密かに隠れていて、持ち帰った品々の中に含まれている可能性もある。マニラでは全ての木箱が燻蒸されているが、さらに品物が民博に届いたときにはひとつひとつ燻蒸消毒されなければならない。そうしなければ、有害な虫や生物が収蔵庫にはびこり、生物分解性の有機的な材料で作られた収蔵品を損傷してしまうかもしれないからである。

結果として、特別展を見に民博へ来られた方々にフィリピンの小さな人里離れた村で今日、人々がどのように暮らしているのか感じてもらえるような展示をすることができれば、これらの努力も報われることになる。この努力が日本とフィリピンが相互理解を深める手助けになることと、日本に住むフィリピン人の方々にこの自国についての展示を楽しんでいただけることを願ってやまない。

ピーター J. マシウス(研究戦略センター助教授)

◆参考サイト
フィリピン国立博物館
ヴァカ モアナ展(オークランド博物館)
開館30周年記念特別展「オセアニア大航海展―ヴァカ モアナ、海の人類大移動」