国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

World Watching from Kingdom of Morocco  2008年2月20日刊行
三島禎子

● カフェの多い国

19年ぶりにモロッコを訪れた。列車で国内を移動しながら、どこまでも続く平坦な土地をなつかしく思い出した。アトラス山脈の北側は畑と牧草地ばかりで、石の数よりも羊の頭数の方が多いのではないかと思えるくらいである。数のことで言えば、この国ではどこの街を訪れても、カフェばかりが目につく。

移動先に着いて、さて美味しいものを食べようと勇んで街へ繰り出した。暗い街でレストランの明かりを求めて歩き始めると、街角のあちこちに明るく賑わいのある店があった。しめしめと思いながら近づいてゆくと、男たちが歩道にせり出した店先の席に座って、じっと道行く人を眺めている。何を食べているのかとこちらは興味津津で、テーブルの上に目をやると、空になったお茶のセットと一杯の水だけがある。店の中はどうかと覗き込むと、やはり男たちが同じようなものを注文して外を向いて座っている。よくよく観察してみると、朝に夕に彼らはカフェに集まってきて、喫茶を楽しみつつ、道行く人を眺めているのである。夕方には仕事帰りの男たちが甘いものをつまみながら談笑している姿も目立つ。一方、女性たちといえば、男性の集まるカフェとはちがうアイスクリームやフルーツジュースを出す店に集まる。イスラームの慣習で、少し前までは女性のカフェへの出入りは禁止されていたそうだ。

さて、お腹は空いているのに、レストランはなかなか見つからない。焼き肉とサンドイッチを専門とするモロッコ風ファーストフード店はあちこちにあるのだが、ちゃんと座って食事ができる店がないのだ。ガイドブックには載っている。人に尋ねてもあるという。それでも見つからない。どの街でもそうだった。人びとは夜には何を食べるのだろう。どこで食べるのだろう。

理由はお酒だった。よいワインがとれる国とはいえ、イスラームの倫理が優先するのが建前である。したがって、お酒を出すような店はひっそりと建っているのである。店構えは暗く、重い扉を開けて中に入らなければ営業しているのかどうかもわからない。

滞在も終わる頃、レストランを見つけるコツもわかってきた。しかし、それでもやはり、夜の食事をする場所は、カフェの数に比べると圧倒的に少ない。モロッコ茶は中国製の緑茶にミントをたっぷりいれた甘い飲み物である。かつても今も、モロッコ人のお茶好きは変わっていないようだった。

三島禎子(民族社会研究部)

◆参考写真

ミント・ティー・セット(常設展示・アフリカ展示場 展示番号:AH0994)
写真1

◆参考サイト
モロッコ概要(日本外務省)