国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱくのオタカラ

浅草奥山生人形 2008年11月19日刊行

吉田憲司

紀元前1世紀に編纂がはじまり、4世紀には現在に伝わる形が整えられたと考えられる、中国の地誌『山海経』(せんがいきょう)。そこには、古代中国にとっての外なる世界、つまり異境の国々に住むとされる、さまざまな人物の姿が描かれている。腹部に穴のあいた人びとの住む国「穿胸(せんきょう)国」、手長の人物の住む国「長臂(ちょうひ)国」、足長の人物の住む国「長股(ちょうこ)国」、巨大な人物の住む国「巨人(きょじん)国」などなど。『山海経』由来のこうした「異人」のイメージは、明代の写本をとおして日本に紹介され、さらには江戸時代を通じて、版画や根付けのなかで繰り返し再生産されるとともに、見世物によって再提示されていく。とくに、熊本出身の人形師・松本喜三郎が、安政2(1855)年から江戸・浅草奥山で生人形(いきにんぎょう)を用いて「外異国人物」の姿を展示した見世物は大変な評判になり、ここに示した歌川国芳の《浅草奥山生人形》をはじめ、そのさまを伝える錦絵が大量に制作された。異国が怪異なものの住む「異境」であるというイメージは、長く生き続けてきたのである。

吉田憲司(文化資源研究センター)

◆今月の「オタカラ」
標本番号:S01 / 標本名:浅草奥山生人形 歌川国芳[国立民族学博物館所蔵]

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19世紀半ば 大判錦絵二枚続 36.2x49.5(cm)
※特別展「アジアとヨーロッパの肖像」にて公開

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特別展「アジアとヨーロッパの肖像」