国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

World Watching from Germany 2008年12月18日刊行

佐々木史郎

● ドイツ狩猟事情

ヨーロッパでは意外と狩猟が盛んであり、また、野生動物の管理が比較的行き届いている。2008年11月7日から15日まで行ったドイツ連邦バイエルン州での狩猟と野生動物管理に関する調査に際して、同州南部のガルミッシュ・パルテンキルヘン近郊で、森林管理官たちが組織したノロジカ、アカシカ猟を見学する機会を得た。

この狩猟は娯楽ではなく、地域の森を保全、育成するために行っているもので、冬に向けて若木の芽や皮をかじるおそれのあるノロジカとアカシカの数をある程度減らすことを目的としていた。そのために、繁殖力が強いノロジカの場合、秋のこの季節にはもっぱら雌を捕る。猟には19人の猟師が集まった。19人すべてが森林管理官であるわけではなく、一部アマチュア猟師も含まれている。今回はミュンヘン工科大学で森林管理方法について教えながら、管理官の一人としてアルプス周辺の森の保全に携わる研究者の案内でこの狩の見学が実現した。

実際の狩は一種の巻狩りである。19人の猟師が山の斜面の決まった場所に配置につき、午前9時に一斉に連れてきた犬を放ってシカ類を駆り立て始める。猟犬たちはシカを見つけると主人の方へ追い立てていき、猟師は犬が追い立ててきたシカを、一定の距離まで近づかせて狩猟可能かどうかを識別した上で射撃する。さすがにドイツ人らしく、午前11時に終了と決めてあると、その時刻にぴたっと犬の吠え声がやむ。すなわち、主人が犬を呼び戻すのである。今回の猟では2時間で雌のノロジカ1頭と雄のアカシカ2頭が捕れた。

ドイツのシカ猟は、もっぱら立派な角をもつ雄のアカシカをねらういわゆる「トロフィー・ハンティング」である。そのために、猟師は肉にはあまり執着しない。ノロジカ猟はもっぱら害獣駆除といった感じである。しかも、歴史的な経緯から、猟師たちはせっかく倒した獲物を自分のものにできない。獲物は狩猟する森の所有者のものとされる。今回の場合、狩猟した森が国有地だったことから、シカの肉は国のものとなる。獲物を倒した猟師も肉は国から買い取らなくてはならないのである。身近にいた猟師が捕った獲物の肉を食べられないという狩猟調査は、今回が初めての経験だった。

佐々木史郎(研究戦略センター)

◆関連ウェブサイト
外務省ホームページ・ドイツ