国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

World Watching from Cambridge, Massachusetts 2009年8月12日刊行

平井京之介

● ハーバード大学教授が逮捕された理由

7月16日昼、ハーバード大学の同僚、ヘンリー・ルイス・ゲイツ教授がケンブリッジの自宅で逮捕された。玄関ドアの建て付けが悪く、こじ開けているところを通行人に通報された。教授は駆けつけた警官に身分証明書を示して無実を証明した。しかし警官に名乗ることを求めると無視されたため、興奮して声を荒げた。それが治安紊乱(びんらん)行為、すなわち社会秩序を乱したというのである。教授は手錠をはめられ警察署に連行された。

事件後、全米を巻き込む人種問題に発展する。教授が黒人だったことから白人ばかりの住宅地で住民に誤報され、白人警官に不当逮捕されたというのである(のちにこの情報は不正確だったことが明らかになる)。アフリカ系米国人研究の第一人者であるゲイツ教授は、マスメディアを通じ警察を「人種差別」として非難した。オバマ大統領が記者会見で、昼間に自分の家にいただけだとわかったのだから、そのまま帰るべきだったとして、警察の「愚かな行動」を批判した。これに対し地元警察は、事情もよく知らずに地域の問題に干渉すべきでないとして、大統領に謝罪を求めた。

騒ぎはオバマ大統領が直接教授と警官に電話し、7月30日にホワイトハウスへ招待したことで沈静化に向かっている。ビールを飲みながらの、教訓として活かすための話し合いだったという。実際に二人のあいだで何が起きたのかが不明なまま、幕引きが図られようとしている。今後、設置された調査委員会等での有意義な議論を期待したい。

この事件から何を教訓として学びとるのか。容疑者の人種を問わず公平な捜査をおこなうにはどうしたらよいか。警官に名乗ることを求めるのは市民の権利として認められており、これが無視されても警官に従わなければならないのか。治安紊乱行為とは何か。

問題は主に「警察とマイノリティ集団の関係をいかに改善するか」として語られている。しかし裕福で政治力のあるハーバード大学教授に、誤認した警官を見下すような態度はなかったのか。ケンブリッジはハーバードとマサチューセッツ工科大学のある大学都市であり、市民にはエリート意識の強い研究者や学生が多い。警察とのあいだに階級問題もあると思う。

平井京之介(民族文化研究部)

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