国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

World Watching from Kenya 2009年10月14日刊行

内藤直樹

● ナイロビの居候たち:ケニアの干ばつと牧畜民の出稼ぎ事情

いま、ケニアの首都・ナイロビで出稼ぎ労働をしている地方出身の牧畜民たちは、居候に悩まされている。おもに20代の多くの若者たちが、職を求めてナイロビにやってくるためだ。慣れない大都会での職探しの期間、彼らは、同じ集落出身の出稼ぎ者の家に居候する。2009年9月、ケニア北部マルサビット県の牧畜民アリアール出身の出稼ぎ者の家には、それぞれ3人から5人の居候が暮らしていた。

なぜ居候が増えたのだろうか?ケニアは今年、厳しい干ばつに襲われている。私がこれまで調査をしていたマルサビット県の牧畜民の集落で1000頭以上のヤギ・ヒツジを飼っていたある人などは、900頭以上の家畜を失った。

これまで人びとは、家畜とともに雨の降る場所を求めて移動することで、たびたびやってくる干ばつに対処していた。しかし今年のケニアには、満足な雨の降る場所など、ほとんど無かったのである。それゆえ、エチオピアとの国境付近に住む一部の牧畜民は、トラックにウシを積み込んで、エチオピアに避難してしまったという。こうした避難手段をもたない大部分の牧畜民は、あまりにも多くの家畜を失い、もはや牧畜に見切りを付けようとさえしている。ナイロビの居候たちは、家畜を失った牧童たちなのである。しかしながら、ナイロビの就職状況もまた、田舎から出てきた若者が簡単に職を手に出来るほど甘くはない。居候のまま日々が過ぎていく。

いまケニアの人びとは、東アフリカに大雨をもたらすエルニーニョ現象を待ち望んでいる。それは各地に洪水被害をもたらし、干ばつで弱った家畜の命も奪うだろう。それでも「雨が降らない今よりはマシ」なのである。いずれにせよ、牧畜民は失った家畜群を再建する必要がある。そのためには緊急食糧支援だけでなく、現代的な状況のもとで持続的な環境利用と食料生産のあり方をいかに再構築するかという、中長期的な展望とそれに基づく支援が必要であろう。ナイロビの居候が故郷に戻るかどうかは、それにかかっている。

内藤直樹(機関研究員)

◆関連ウェブサイト
Daily Nation(ケニアの代表的新聞)
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