国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

World Watching from Thailand 2009年12月16日刊行

樫永真佐夫

● ボクサー、試合中に靴を脱ぐ

バンコクで、プロボクシングの試合をテレビ観戦していると、最終6ラウンドの最中、とつぜんレフェリーが、怪我や出血でもないのにタイムを入れた。なんだろうと思ったら、一方の選手の靴の底が完全に抜けていた。まさか予備の靴なんて準備していない。レフェリーは、その選手を裸足にさせ、試合を続行させた。それはボクシングのルールに抵触するのでは!しかし、「マイ・ペン・ライ(だいじょうぶ)」。かたいこと言わないのが、タイ・スタイルだ。

ここからが、もっとおもしろかった。それまで敗色濃かった選手の動きが、裸足になったとたん、よくなったのだ。ふつうボクサーは、いつも靴履きなので、裸足になるとフットワークしにくい。しかし、タイのボクサーの多くは、ムエタイ(タイ式ボクシング)との二足のわらじだ。ムエタイではキックも許されるから、練習でも、試合でも、いつも裸足。変な表現だが、「裸足はお手のもの」なのだ。

裸足になった選手の判定負けだったので、順当な結果と思われ、ほっとした。いっぽうで、いっそのこと二人とも裸足にした方が平等だったのでは、という気持ちもぬぐいきれない。もちろん、そんなの「マイ・ペン・ライ」。

さて、ムエタイからボクシングに転向し、大活躍した選手は少なくない。センサク・ムアンスリンなど、デビュー後1年、3戦目でWBC世界チャンピオンという驚異の偉業を成し遂げた(ガッツ石松が挑むも、6RKO負け)。そういうボクシング大国なのに、ここのプロに戦績を聞いてみると、「だいたい20戦」とか、曖昧なことがある。日本人ボクサーが、プロ・アマ問わず、何戦何勝何敗(何KO)と、自分の戦績をしっかり胸に刻みこんでいるのと、大違いだ。

これは、両国のボクシングを管理する組織のあり方とも関わっているだろう。タイにもタイボクシングコミッション(TBC)があるが、日本ボクシングコミッション(JBC)と異なり、TBCがすべての興業や選手を管理しているわけではない。個々のプロモーターの力で、たくさんの興業が全国で行われている。公式か非公式かという認定も、興業によっては困難である。

そんなわけだから、やっぱり裸足になるくらい、マイ・ペン・ライかも。

樫永真佐夫(民族社会研究部准教授)

◆関連ウェブサイト
日本ボクシングコミッション
バンコクから愛を込めないで(ボクシング情熱編)
外務省ホームページ