国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

World Watching from Taiwan  2010年1月20日刊行
陳天璽

● 楽しく、オシャレな新型インフル対策

新型インフルエンザが蔓延し、グローバルな現象となっている。新型インフルは万国共通の問題だか、その対策にはお国柄が出るようだ。

日本では、水際で感染を防ごうと、海外から入国する人の体温をサーモグラフィーでチェックしている。街なかでは「マスク・フェイス」がすっかり定番だ。ヨーロッパから来日した友人は、「マスク・フェイス」の多さに驚きを隠せないようだった。

お隣の台湾も、日本と同じように厳重な警戒体制がとられている。先日、会議のため台湾に行った際、検疫ブースに、「マスク・フェイス」の女性監視員5人が、戦いを受けて立つといわんばかりに仁王立ちしていた。マスク姿なので表情さえ見えなかったが、訝しげな雰囲気が醸し出され怖いくらいだ。新型インフル対策の徹底ぶりがにじみ出ていた。

今回私は、中央研究院で開かれる東アジアの人類学を考えるシンポジウムに出席するため、3日間だけ台湾を訪れた。中央研究院の敷地内中心部にあるレストランや宿泊施設が併設されたビルの入り口では、警備員がピストルのようなものを入る人の頭に向けている。「なんだろう?」と思い、恐る恐る両手をあげて入っていったら、私の額で「ピッ」と。見事なことにものの一秒で、ピストルは私の体温を測ってくれた。子供のいる家には便利な体温計だと思い、欲しくなった。また、研究院の各ビルの入り口には、手を出すだけで自動感知し「プシュッ」と消毒液を出すスプレーが設置されていた。日本の手動ポンプ型しか知らなかった私は、感動して思わず何度も手を出してしまった。

台北の街中でも日本と同じように「マスク・フェイス」は、あちこちで見られた。しかし、マスクはマスクでも、日本で流行っているような色気のない「使い捨てマスク」ではなく、つけている人の個性やその日のテーマが伝わってくるような「マイ・マスク」が流行っていた。どんなものかというと、さまざまな色や絵柄があしらわれているマスクで、洋服やファッションに合わせつけ替えて楽しめるようになっている。使い捨てでなく洗って再利用できるので、エコでもある。若者が出入りするショップでは、アクセサリーコーナーの横にマスクコーナーが設置されていた。女性だけがつけているかと思いきや、男性も「マイ・マスク」をつけており、オシャレな人は洋服とコーディネートしていた。

新型インフル対策も、ちょっとしたアイディアしだいで、楽しく、ファッショナブルになるものだと感心した。

陳天璽(民族社会研究部准教授)

◆関連ウェブサイト
新型インフルエンザ対策ガイドライン
台湾 中央研究院
外務省ホームページ