国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

World Watching from Pusan  2010年12月17日刊行
杉本良男

● 韓流ブームいまだおとろえず

10月7日に開幕した釜山国際映画祭(PIFF)は同月13日大成功のうちに閉幕した。映画祭は風光明媚な海雲台地区一帯のホテル、デパートなどを舞台に繰り広げられたが、世界70あまりの国から上映映画数のべ306本、このうち世界プレミエ101本、海外プレミエ52本、総観客数18万あまりという大規模なものであった。

なぜ私のようなインド研究者が釜山なのか。それはメイン・ゲストとしてインドのマニ・ラトナム監督と出演者が招かれていたからである。監督作品は、同内容で言葉がちがう「Raavanan」(タミル語)と「Raavan」(ヒンディー語)が上映された。音楽は昨年のアカデミー賞音楽賞を受賞したA. R. ラフマーン。インド映画通にいわせると、前回の受賞作はラフマーンらしくないまったくの凡作だったが、今回は盟友マニ・ラトナムの作品とあってじつに見事な音楽に仕上がっている。

監督はこの映画祭は2度目ということであるが、ほかのインド人俳優はいずれも初めてのようであった。記者会見などでのやりとりを見る限り、メディアもふくめて韓国でインド映画はあまり知られていないことがよく分かった。最近韓国にもインド人の往来が増え、インド料理店もちらほら見られるようになったが、まだまだ人の交流は低調のようである。

その一方で、日本の韓流ブーム恐るべしとの印象がますます強くなった。7日夜の開会式では、観客の6割を占めるといわれる日本人が、レッド・カーペットを踏んで出てくるスターについてのこまごました知識を競い、黄色い歓声を上げているさまに圧倒された。いまや日本のテレビで放映されている韓流ドラマはのべ百本以上をこえるといわれる。すでにドラマ制作への意欲を半ば放棄して韓流に依存している日本のテレビ業界の創造力の枯渇が、こうした草の根の日韓交流に役立っているとしたら皮肉な話ではないか。

杉本良男(民族社会研究部教授)

◆関連ウェブサイト
インド(日本外務省ホームページ)
釜山国際映画祭(PIFF)の公式サイト

◆関連情報
筆者の杉本良男(本館教授)が「春のみんぱくフォーラム2011―ことばの世界へ」にてシンハラ語講座をおこないます。また、本文に出てくるタミル語講座(講師:寺田吉孝(本館教授))もございます。
詳しくはみんぱくホームページ「春のみんぱくフォーラム2011―ことばの世界へ」をご覧ください。