国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱくのオタカラ

~「梅棹アーカイブズ」より(4) ポー川の紙吹雪  2011年5月20日刊行
小長谷有紀

梅棹にとって、記録のためのいくつもの技法はしばしの「忘却の装置」であった。忘れてもいいように情報をカード化しておく、というわけである。同様に、言 語もまた、調査地での道具であるから、その場ではおおいに利用するが、ずっとおぼえておくための努力はしない。せっせと忘れよう。

1969年、第二次京都大学ヨーロッパ学術調査隊で、梅棹は谷泰(のちに人文学研究所所長)とともに、イタリアを調査した。その際、イタリア語の勉強のた めに書いて増やした数千枚の単語カードは、調査終了時に捨てられた。そんな逸話が『実践・世界言語紀行』(1992年刊)に「ポー川の紙吹雪」と題して記 されている。

記録魔であり、残し魔であり、整理魔だった梅棹だが、なんにでも執着して残すわけではない。所有欲はないから、あっさり捨てることも多い。単語カードの場 合は、不要になったから捨てた。そのようすが写真として残されている。ポー川に捨てたカードは、紙吹雪のようには舞わなかったのだった。

小長谷有紀(民族社会研究部教授)

◆今月の「オタカラ」

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ポー川と捨てた単語カード

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