国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱくのオタカラ

針入れ(千島アイヌ) 2011年11月18日刊行

齋藤玲子

千島アイヌの民具は、数が少ないということに加え、文化の変容をよく表している点でも資料的価値が高いといえる。同じ用途のものでも、北海道アイヌとは違う素材や形の道具があり、隣接するカムチャツカの先住民やロシア人の影響を受けたと考えられるものが多い。

たとえば、今回紹介する針入れもそうだ。現代まで伝わっている北海道アイヌの針入れは木製の筒で、針は筒に通した細い布に刺しておく。同じタイプのものは世界各地にあり、北方の先住民の間では骨製の筒に皮ひもを通した針入れが使われていた。アイヌ文化期より前のオホーツク文化期の遺跡からも、鳥の骨製の針入れが出土している。

鳥居龍蔵が1899(明治32)年に色丹島で収集した2つの針入れは、手のひらの長さを1.5倍にしたくらいの大きさで、布を重ねてキルト状に縫ったものだ。内側は複数のポケットがあってボタンなどの小物を入れることができ、針は横向きに刺し、くるくると巻いて先端のひもで留めて収納する。K0002380のほうは、腱(けん)をよった糸と鉄製の針が刺してある。鳥居は、この針入れはカムチャダール(カムチャツカ南部の先住民イテリメン、またはロシア化したイテリメン)が用いたもので、後に千島のアイヌにも伝わり、骨製のものが廃れた、としている。

鳥居はカムチャダールと書いているが、もとをたどれば、ヨーロッパで使われていた裁縫道具入れをロシア人がもたらしたのだろう。そうして、この地で長く使い続けられていたはずの骨製の針入れは、おそらく19世紀に使われなくなったのだ。

齋藤玲子(民族文化研究部助教)

◆今月の「オタカラ」
標本番号:(左)K0002349(右)K0002380 / 標本名:針入れ[色丹島<収集>]

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※K0002349は特別展「千島・樺太・北海道 アイヌのくらし――ドイツコレクションを中心に」にて展示中

◆関連ページ
特別展「千島・樺太・北海道 アイヌのくらし――ドイツコレクションを中心に」(2011年10月6日(木)~2011年12月6日(火)開催)