国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

World Watching from South China  2012年4月20日刊行
河合洋尚

● 変わりゆく清明の節句の墓参り

日本では、お彼岸に祖先の墓参りをする習慣がある。かつては中国でも同様にお彼岸に墓参りをしていたところが少なくなかったし、今でもその日を最も重要な祖先供養の日としている人々もいる。しかし、現在の中国を全般的に見渡すと、墓参りは4月5日の清明(せいめい)の節句[中国では清明節(せいめいせつ)という]あたりにおこなうのが普通で、清明節の前後3日間は今、国民の休日に定められている。

今年の4月、私はちょうど清明節の前後に中国広東省の梅州(ばいしゅう)を訪れた。ここは日頃は閑静な町であるのだが、この時はいつもと様子が違っていた。日本の墓参りは静かなものだが、ここでは大変賑やかで、墓前で線香を焚き、爆竹を鳴らす。梅州の人々は長時間の渋滞に耐えながら帰省し、町中に爆竹の音を響かせていた。

私が最初に梅州を訪れたのは2003年であったが、その頃と比べると、祖先への崇拝の仕方もずいぶん変わったものだと実感させられる。梅州では、沖縄の亀甲墓(きっこうばか)にも似た大きな墓が昔からあるが、最近では、公共墓地への移行が進んでいる。公共墓地は、仏教寺院や道教の廟(びょう)が管理するようになり、清明節になると多くの人が押しかける。今回、私は道教の廟に行ったのだが、普段は誰もいない廟に、爆竹の音がうるさいくらい鳴り響いていた。

大都市の清明節は、さらに多様化している。私は今回、中国南方有数の都市である広州(こうしゅう)にも寄ったが、ここの公共墓地では新たな試みがいくつかなされていた。たとえば、墓地の管理者は、日本のように静かな墓参りを求め、線香と爆竹を禁止し、代わりに花を添える「禁煙区」を設置していた。しかし、管理者の思惑とは別に、「これでは祖先が喜ばない」と、参拝者には非常にうけが悪かった。

また、何かの理由で墓地に来ることのできない人のために、全くの他人が代理で墓参りをするサービスが登場していた。料金は、オプションにより違いがあり、たとえば、代わりに墓地で泣いてくれるサービスをつけると、30分の墓参りで300元(4500円相当)になるとのことであった。祖先崇拝を重視する中国。その崇拝の在り方も、時代の要請に応じて徐々に変わりつつあるようだ。

河合洋尚(研究戦略センター機関研究員)

◆関連ウェブサイト
広州市政府ポータルサイト
梅州市人民政府ホームページ(中国語)
中華人民共和国(日本外務省ホームページ)