国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

World Watching from Vientiane  2012年11月16日刊行
白川千尋

● 経済成長と蚊帳

ここ数年、毎年のようにラオスの首都ヴィエンチャンを訪れているが、通りを走る車の量が年々増えている。それは近年のラオスの経済成長ぶりを映し出しているかのようである。

ところで、ラオスは織物で有名な国である。旅行ガイドに掲載されているような織物の専門店だけでなく、ほかの雑多な工芸品もいっしょに売っている市場の小さな土産物店まで含めると、ヴィエンチャンの街中で織物製品を扱っている店はおびただしい数に上るだろう。ほとんどの店が扱っているのは言うまでもなく新品だが、それに加えてアンティークの織物を置いている店も多くはないがある。一般的な観光客というよりは、むしろ織物の愛好家や専門家向けに売られているこれらアンティークの品々は、天然の素材だけを使って手織りされたものであり、一つとして同じものがない。

アンティークの織物には衣装や寝具をはじめとしてさまざまなものがあるが、おもしろいものの一つに蚊帳の飾り帯がある。ラオス北部に暮らすタイ・ダムやタイ・デーンなどの民族の人々は、伝統的に黒っぽい色をした綿布でできた蚊帳を使ってきた。その上の方には、色鮮やかな絹糸や綿糸で織り上げられた、動物などを表した模様や幾何学模様が帯状にあしらわれている。長さ5~6メートルのこの帯状の模様の部分が切り取られ、アンティークとして売られているのだ。街中のある店では、もっとも高価なものに約40,000円もの値がつけられていた。状態が良いことに加えて、天然の素材で染められた絹糸がふんだんに使われていることが、その理由のようである。

安いものでも数千円する蚊帳の飾り帯や、そのほかのアンティークの織物を購入してゆくのは、もっぱら欧米人と日本人であるという。しかし、最近では裕福なラオ人が買い求めてゆくケースも出てきているという話も聞く。もしそれが事実であるとするならば、そうした動きもまたラオスの経済成長と無縁ではないものかもしれない。

白川千尋(民族文化研究部准教授)

◆関連ウェブサイト
みんぱくe-news92号「World Watching from Laos――ルアンナムター蚊帳事情」
旅・いろいろ地球人「モノを見る目(4)ラオスの蚊帳」[毎日新聞]
ラオス人民民主共和国(日本国外務省ホームページ)