国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱくのオタカラ

米びつ 2013年5月24日刊行

飯田卓

特別展「マダガスカル 霧の森のくらし」では、生活のなかで伝えられてきたさまざまなものづくりを紹介している。展示資料の多くは、霧の森のザフィマニリ人が日常生活のなかで用いてきたものだが、その木彫り技術がユネスコ無形文化遺産に指定されたいま、ものづくりには商品化の側面も否応なく生じてきている。そうした動きのひとつとして、家屋にのみほどこしてきた幾何学文様を、小物や家具にほどこして付加価値を高めることが始まっている。

この米びつ、幾何学文様が彫られているが、最初から文様があったわけではない。よく見ると彫り跡が地の色よりも白いことから、使いこまれた後で文様が刻まれたことがわかる。古道具を買ってそれに彫りをほどこすことが、彫り師のあらたな商売のひとつになっているのだ。

この米びつをもともと使っていたのは、じつはザフィマニリ人でなく、もっと標高が低いところに住むタナラ人であった。ザフィマニリ人は、こうした米びつを伝統的に使っていたわけではないので、この米びつはタナラ人の民族誌資料というべきだろう。しかし、ザフィマニリの彫り師が文様を刻んで付加価値をつけたので、ザフィマニリ工芸ともいえる。この米びつは、タナラ人のものだろうか、ザフィマニリ人のものだろうか?伝統が商品化していくと、このように由来が異なるものも伝統にとり込まれていく。

飯田卓(先端人類科学研究部准教授)

◆今月の「オタカラ」
標本番号:番号なし(※特別展終了後、みんぱくに寄贈予定)/資料名:米びつ

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◆関連ページ
特別展「マダガスカル 霧の森のくらし」(2013年3月14日~6月11日)