国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱくのオタカラ

大漁着  2013年6月21日刊行
近藤雅樹

昭和10年代の前半に渋沢敬三の指示によって収集された標本資料の一つ。千葉県安房郡白浜町から収集されたものである。房総地方では大漁着のことを「まいわいぎ」と称し、万祝着あるいは舞祝着の字をあてる。「まいわいぎ」とは、豊漁を祝って、あるいは祈願して着用した猟師たちの晴着のことである。この着物の裾模様の隅には「鮪」の文字を染めた幟(のぼり)が描きこまれていることから、マグロ漁師仲間が着用していたものであることがわかる。

当時、渋沢敬三は日本実業史博物館建設のために必要な資料を、おもに甲州文庫やうさぎやなどの古物商を動員して収集につとめていた。この大漁着もうさぎやが収集したものであるが、渋沢は購入した資料の一部を日本実業史博物館のものとしてではなく、民具研究のためにアチックミューゼアムの資料として振りわけることもあった。そのような経緯からこの大漁着はアチックミューゼアムの民具コレクションに含まれることとなったのである。

現在、この大漁着は本館の日本の文化展示に陳列されている。ちなみに、アチックミューゼアムが所蔵していた大漁着は複数あり、いずれも旧文部省史料館に寄贈されたものが民博に管理替えされて今日に至っている。この秋の特別展「渋沢敬三記念事業 屋根裏部屋の博物館 Attic Museum」(2013年9月19日(木)~12月3日(火)開催予定)にも、別の大漁着を出品する予定である。

近藤雅樹(民族文化研究部教授)

◆今月の「オタカラ」
標本番号:H0018807/資料名:大漁着

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◆関連ページ
特別展「渋沢敬三記念事業 屋根裏部屋の博物館 Attic Museum」(2013年9月19日~12月3日)