国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱくのオタカラ

頭上運搬用輪  2013年10月18日刊行
太田心平

韓国研究者として、私は「韓国ほど社会の変化が激しい国はない」と、口ぐせのようにいっている。これを立証してくれるモノが、いまみんぱくの特別展で御覧いただける。1936年に韓国の蔚山(ウルサン)で収集された民具類の一部である。つまり、77年前の生活道具だ。

さて、77年前、我われの生活はどんなふうだっただろうか。長寿大国に住む我われのまわりには、80代以上の方がたもたいへん多い。そうした方がたがお持ちの写真や、語ってくださる話を通じて、我われは77年前にもラジオを聴き、電燈を灯し、洋装でバスに乗っていたことがわかる。そのころの家具や、当時の手紙類などを、いまでも大切にお持ちの方がたも少なくない。77年前だろうが、現代との連続性が感じられよう。

だが、韓国の事情はかなり違っている。1910年から45年まで続いた日本による植民地支配、50年代の内戦と荒廃、そして90年代までおこなわれた軍事政権による屈強な近代化政策、現在進行形の先進国化。これらのすべてが、韓国社会の変化速度を圧縮させた。

いま特別展の朝鮮半島セクションに展示されている生活用具は、2年前、蔚山博物館の特別展「75年ぶりの帰郷」のために蔚山に「里帰り」したことがある。その時の様子は、このe-newsの126号(2011年12月配信)でも御紹介したが、人びとは現在の自画像とあまりに違う品じなだと驚いていた。彼/彼女らにとっては、77年も前のモノ。急激な変化のせいで、韓国国内にはあまり多く残っていない。現在とは断絶した遠い過去のモノであるかのようだった。

一例をしめせば、「頭上運搬用輪」というモノがある。頭の上にタライなどを乗せて歩く際に、安定をよくするため、頭と荷物のあいだにはさむ輪っかだ。そういえば、10年ほど前まで、ソウルの街中でも頭の上に物を乗せている人をよく見たものだ。しかし、たった数年でそういう人がほとんど消え去った。韓国では、モノがなくなっただけではない。荷物の持ち方すら、変わったのである。

太田心平(民族社会研究部准教授)

◆今月の「オタカラ」
標本番号:H0018241/資料名:頭上運搬用輪

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