国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

World Watching from New York  2013年11月22日刊行
太田心平

● ラーメン・ブームの舞台裏

世界最大の都市ニューヨークは、世界経済の集積基地であり、多民族の都であり、新しい芸術や文化を生み出す街である。そんなニューヨークで、いま日本のラーメンが大ブレイクしている。

ニューヨークで本格的な日本のラーメンを出す店が増えているのは、以前からのことだ。ただ、ラーメン屋でラーメンを食べているのは、もともと大部分が東アジア系の人びとで、それ以外の人を見かけても、たいがい鶏の唐揚げや餃子しか食べていないものだった。私に連れられて初めてラーメン屋に行った米国人も、「塩や醤油で麺を食べろだって?」と、いぶかしげな顔をし、けっきょく麺類には手を付けなかった。

それがである。ラーメンは目を見張る勢いで広まった。たとえば、2012年には、「ストリート・ラーメン・コンテスト」なるイベントが、市内で4回も行われた。翌2013年の秋には、ニューヨークの大手情報紙に、新しく開店する10件ほどのラーメン屋を比較する特集記事が出た。この内容がすごい。註釈もなしに「トンコツ」だの「ツケメン」だのと日本語を多用し、読者に味探訪を提案する趣向だったのである。この記事は、フーディー(食道楽なニューヨーカー)なら、どんな人種であっても、こうした用語をすでに知っているということの、まぎれもない証拠だ。

この記事で知った新規参入店のひとつを訪れた。店名も外見も内装も、間違いなく日本のラーメン屋なのだが、厨房で飛び交っていたのは韓国語である。世界に日本食が広がれば、それを売る韓国人が各地に増えるという現象は、以前からよくあることなので、私はべつだん気にせず塩ラーメンに舌鼓を打っていた。ところが、ふと見ると、カウンターには韓国料理屋と同じ赤唐辛子粉が。そして、横に座っている観光客と思しき日本人たちの会話が気になりだした。彼らはかなり御立腹で、曰く、「韓国人にビジネスチャンスを取られちゃってる」、だそうだ。

まあ、そうおっしゃるな。こんななかから新しい味が生まれ、いつの日かニューヨーク風ラーメンなるものも誕生し、世界に広がっていくのである。そういう私の一番のお気に入りは、在日ビルマ人として東京に暮らしていた人びとが渡米し、マンハッタンで開いたラーメン屋である。くだんの選手権でも優勝していて、これがなかなか。

太田心平(民族社会研究部准教授)

◆関連ウェブサイト
ニューヨーク・ストリート・ラーメン・コンテスト2012 アメリカ合衆国(日本国外務省ホームページ)