国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

ボージプリー文化の復興 ~モーリシャス~  2015年7月1日刊行
杉本良男

昨年の暮れから元旦にかけて、ほぼ20年ぶりにモーリシャスを訪れた。インド洋の西部、マダガスカル島の東方に位置するこの島はもともと無人島であったが、フランス、イギリスなどの手でサトウキビ・プランテーションが開発された歴史がある。島にはアフリカ出自のクレオール系、それにインド系、中国系などの人びとが混住しているが、そのうちインド系が全体の7割を占めている。クレオール系の人びとはプランテーション労働者として入植させられたが、それだけでは生活が成り立たず、インド系の人びとをいれて社会の体裁を整えたという。

この島にはインドの協力をうけてマハトマー・ガンディー研究所(MGI)が創設されているが、図書館にはインドから移住させられた人びとの台帳が残されている。そこには名前、居住地、カースト、どこの港から送り出されたか、など詳細なデータが記されていて、移民研究者にとっては宝の山である。

前回同様今回も、ボージプリー学校をつくってインド文化復興運動を推進してきたサリタ・ブードゥー氏のお世話になった。1986年に最初に学校を訪ねたその日から氏の家に居候させてもらうという幸運に恵まれたが、今回も懐かしく再会した。今世紀に入って、モーリシャスとインドとの関係は、互いのナショナリズムの高揚をうけて、いちじるしく深まっている。インド系の言語を重視しようと働きかけてきたサリタ氏は、そうした動きの中心にいる。

モーリシャスのインド人は、北インドのウッタル・プラデーシュ州からビハール州にかけてのヒンディー語の方言ボージプリーを話していた地域からの人びとが多く、21世紀にはいるとモーリシャス政府とビハール州政府とが協力して、ボージプリー文化の復興を図っている。2005年以降インドではこのボージプリーでつくられる映画が年間50本をこえ、高尚趣味のヒンディー映画を足元から脅かしているが、モーリシャスでも、文化復興の波に乗って、24時間ノンストップのボージプリー・チャンネルが2013年からスタートしたところである。

杉本良男(民族文化研究部教授)

◆関連写真

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さまざまな人びとが交錯する首都ポートルイス

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主にクレオール系の人びとが訪れる教会

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南インド風のヒンドゥー寺院

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インド政府が贈った巨大なシヴァ神像

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神像のそばの池はヒンドゥー教の一大聖地となっている

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ヒンディー映画を上映する映画館

◆関連ウェブサイト
モーリシャス共和国(日本国外務省ホームページ)