国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

「朝鮮半島の文化」ビデオテーク作品の制作と焼酎のアルコール度数  2015年9月1日刊行
朝倉敏夫

7月上旬、「朝鮮半島の文化」に関する映像資料のプロジェクトで韓国国立民俗博物館(以下、ソウル民博)へ行った。このプロジェクトは6年前から毎年、映像人類学を志す韓国の大学生3チームに本館のビデオテーク作品を制作してもらっているもので、これまでも「入隊」(2805)、「韓国の大学入試文化」(2852)など、学生ならではの作品が作られてきた。今年は9チームの応募があり、外部審査員とソウル民博のスタッフによって、ソウル芸術大学、韓国学中央研究院、中央大学の3チームが選ばれた。3チームとも女子学生二人ずつのチームであった。

本館の文化資源研究センター助教の川瀬さんによる映像人類学に関するセミナーの後、3チームにより制作したい作品についてのプレゼンテーションがあり、それに対しソウル大学の李文雄名誉教授、川瀬さん、私、そしてソウル民博のスタッフがコメントを述べた。

プロジェクト終了後は、ソウル民博民俗研究課の鄭明燮課長がプロジェクトに参加した全員を居酒屋に連れて行ってくれた。女子学生たちはアルコール度数が14度の「柚子の香りのする焼酎」を注文した。それは最近になって出荷された新しい銘柄の焼酎で、出荷して2ヶ月で1000万本売れた人気商品だという。

かつては居酒屋といえば、男たちがアルコール度数25度の焼酎を、政治のことを熱く語りながら、明日のことも考えず、杯を回して飲み干したものである。それが、今は日本酒よりも度数の低い14度の焼酎を、若い女性たちが、ファッションや夏休みのことを話しながら、軽やかに味わっている。

私が1979年に初めて韓国に行った時は、焼酎のアルコール度数は25度であった。その後しばらくは25度が続いたが、1997年に23度の焼酎が出されてから、年年度数がどんどんと下がってゆき、2006年には20度を割るものが、そして今年2015年にはついに14度と13.5度の果物の香りのする焼酎が出されたのである。私は一人、今売られているなかでは最も度数の高い20度の焼酎を飲みながら、焼酎のアルコール度数の変化が、韓国社会の変化のバロメーターになるのではないかと考えた。

さて、今年の3チームの主題は、「現代の葬礼」、「産後処理院」「韓服」である。ちょうど民博のビデオテークには、1979年制作の「韓国の葬儀」(1155)、「韓国の通過儀礼―誕生から成人式まで」(1150)、1980年制作の「韓国の伝統衣裳」(1151)がある。今回、彼女たちの制作する作品は、これらの主題について現代的な表現となる。焼酎のアルコール度数の変化さながらに、韓国文化の40年の変化を、彼女たちの作品によって知ることができると期待がふくらんだ。この1年をかけて制作される彼女たちのビデオテーク作品は、来年の秋には公開される予定である。

皆さんも楽しみにしていてほしい。

朝倉敏夫(民族社会研究部教授)

◆関連写真

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新発売「柚子の香りのする焼酎」の看板。女性にも人気。

◆関連ウェブサイト
大韓民国(日本国外務省ホームページ)