国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

砂漠の一本道から生み出されたオーストラリア・アボリジニの芸術  2016年6月1日刊行
丹羽典生

オーストラリア西部の砂漠地帯を縦断する1850キロに及ぶ一本道がある。世界最長ともされるこのキャニングストックルート(キャニング牛追いルート)は、近年、先住民アボリジニによる芸術運動の発祥地ともなった。2007年この道の周辺にかつて生活していたアボリジニとその子孫が、道沿いに旅をして、過去の経験を回顧しつつ、作品化するプロジェクトが行われたのである。

見渡す限り広がる砂漠の中を通る一本道は、100年以上前に、牧草地帯から市場まで牛の群れを追い立てるために探検家キャニングによって探索されたものである。ただし道は無人の荒野を横切っているわけではなかった。5万年前からオーストラリア大陸ではアボリジニが過酷な環境の中を生き抜いていたからである。道を通じて、オーストラリアの先住民であるアボリジニと18世紀以降にこの地に足を踏み入れたヨーロッパ人入植者とのふたつの世界が劇的に出会うことともなった。この出会いはアボリジニの生活を劇的に変化させ、砂漠を去る者もいた。両者の出会いという歴史的事実を背景とする砂漠生活からの離脱という彼ら個々人の経験は、絵画作品の中にも刻み込まれている。

6月9日から開催される企画展「ワンロード:現代アボリジニアートの世界」では、そうした出会いに触発されたアボリジニアート34点を、解説映像3本とアボリジニのカゴ4点とともに展示する。アボリジニアートの一見抽象的なデザインや色彩の配列の背後には、こうした時には個人的ともいえる歴史的な経験が重層的に書き込まれているのである。本館で現代アボリジニアートの世界をじかに堪能していただければ幸いである。

丹羽典生(研究戦略センター准教授)

◆関連写真

◆関連ウェブサイト
企画展「ワンロード: 現代アボリジニ・アートの世界」
オーストラリア国立博物館の展示
キャニング牛追いルートのプロジェクト
オーストラリア連邦(日本国外務省ホームページ)