国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

カザフ草原の暮らし――中央・北アジア新展示  2016年7月1日刊行
藤本透子

カザフスタンでは、お祝い事があると家族だけではなく親戚や隣人も家に集まり、食事し歌を歌うなどしてにぎやかに過ごす。33年ぶりにリニューアルした中央・北アジア展示では、半世紀前まで住居として使われていた天幕に加えて、現在のカザフスタン村落部の定住家屋の室内の様子を再現した。床にはフェルトが敷かれ、部屋中央の円形の低いテーブルには揚げパンや乾燥チーズがおかれて、スカーフをかぶった女性がサモワールでミルクティーをいれている。男性は弦楽器ドンブラをかき鳴らし、子どもはその周りで遊んでいる。

暮らしのひとコマを表すこの展示を作るにあたっては、私が調査している村の人たちの協力を得た。女性マネキンが着ているワンピースは、80歳になるおばあさんから譲っていただいた。サモワールや敷物は、1970年代に嫁いだ女性たちの嫁入り道具の一部であった。白と黒の文様が美しいフェルト製の敷物は、村人たちが飼うヒツジの毛からたいへんな時間をかけて作られたが、今では作り手が減ってしまった。その一方で、色あざやかな座布団やクッションは、新たに女性たちが縫ってくれた。こうした縫い物は娘が嫁ぐときに親戚総出で行うため、みんぱく用の座布団やクッションも「嫁入り道具」として作られた。クッションの2羽の白鳥のモチーフは結婚祝でよく見られるもので、末永く幸せであるようにとの願いが込められている。

今回、こうして村の人たちの話を聞きながら展示を構成できたことは、外国人による調査が難しかったソ連時代と比べて大きな違いであった。新しい中央・北アジア展示では、社会主義体制からの移行という大きな変化をふまえて、今を生きる人々の暮らしを表現している。ここに紹介したのはそのごく一部に過ぎない。展示場にぜひ足をお運びいただき、ご覧いただければと思っている。夏のみんぱくフォーラムでも、コンサートや映画などさまざまな企画をとおして現地の社会と文化を紹介している。

藤本透子(民族文化研究部助教)

◆関連写真

[img]
[img]
中央・北アジア新展示の「カザフ草原の暮らし」

◆関連ウェブサイト
中央・北アジアを駆けめぐる―夏のみんぱくフォーラム2016
カザフスタン共和国(日本国外務省ホームページ)