国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

アイヌの世界観を人形劇で  2016年12月1日刊行
齋藤玲子

12月3日にアイヌの民話を原作とした人形劇「ふんだりけったりクマ神さま」を上演する。アイヌの世界観ではあらゆるものに霊魂があり、とくに生活と関わりが深く、人間を超える力を持つものをカムイ(神)として意識してきた。民話の中のさまざまなカムイをはじめとする登場人物は、空を飛ぶなど超人的な動きをし、物語は思いもよらぬ展開をする。生身の人間が演じるのは難しいが、人形劇ならそれらをうまく表現することができる。

カムイたちはカムイモシ(カムイの世界)では、ふだん人間と同じ姿でくらしているが、アイヌモシ(人間の世界)に来るときには、動物や植物などの衣装を着て、それぞれの役目をもって下りてくると考えられている。この人形劇では、クマのカムイはクマの衣装を身に着けて人間界に来る。人間に狩られ、魂と肉体が分離されると、毛皮や肉は人間への贈り物となり、受け取った人間は感謝して祈りと供物を捧げて、魂(カムイ)を天上のカムイモシへ送り返す。カムイモシに帰ったクマのカムイはもらった供物で宴会をひらき、ほかのカムイたちに人間界での出来事を話して聞かせる・・・。

こうした世界観を表現するのに、人形劇が採用された。監修者である札幌大学副学長の本田優子さんは、2012年に阿寒湖畔に新設されたシアターでの演目の相談を受けていたころ、札幌市子どもの劇場やまびこ座でアイヌの民話をもとにした人形劇を見て、これこそふさわしいと感じたそうだ。演出助手を務めた阿寒アイヌ工芸協同組合専務理事の秋辺日出男さんは、クマの姿をしたカムイが現れ、人間の姿で空を飛んでカムイの世界に戻るなどの場面は、演劇では難しいが、かといってアニメでは現実離れしすぎる、と言う。

アイヌは口伝えでさまざまな物語を継承してきた。昔の子どもたちは、炉辺で年寄りたちが語る話に想像を膨らませたことだろう。今回は、人形という目に見える造形の力も借りて、アイヌの世界観を楽しんで欲しい。かつて子どもだった人たちにも、きっと満足いただけると思う。

 

齋藤玲子(民族文化研究部准教授)

 

 

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アイヌ民話人形劇

 

◆関連ウェブサイト
アイヌ展示チアシ!―冬のみんぱくフォーラム2017