国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく映画会

2010年7月24日(土)
わが故郷の歌
研究領域「包摂と自律の人間学」

国立民族学博物館では、2009年秋から開始した機関研究<包摂と自律の人間学>のテーマにあわせて、研究者による解説付きの上映会「みんぱくワールドシネマ」を始めました。第2期にあたる2010年は、さらに<国境と民族>をキーワードにして、映画上映を展開していきます。今回は、館内・音楽展示リニューアルにもあわせて、国家を持たない世界最大の民族と呼ばれるクルド民族を描いた「わが故郷の歌」です。クルドの生命と愛を力強い音楽で彩った作品を通して、国境で分断されている民族について、皆さんと考えたいと思います。

  • 日 時:2010年7月24日(土) 13:30~16:00(開場13:00)
  • 場 所:国立民族学博物館 講堂
  • 定 員:450名
    • 整理券は10:00より講堂入口にて配布いたします。
    • 事前申込は不要です。
    • 毎週土曜日は、小・中・高生は観覧無料です。ただし、自然文化園を通行される場合は、入園料が必要です。
  • 参加料:無料(ただし、常設展・特別展をご覧になる方は別途観覧料が必要です。)
  • 主 催:国立民族学博物館
  • チラシダウンロード[PDF:848KB]

みんぱくワールドシネマ 映像に描かれる<包摂と自律> ―国境と民族を越えて― 第6回上映会

「わが故郷の歌」 Gomshodei dar Araq
2002年/イラン映画/クルド語/100分/日本語字幕つき
【開催日】2010年7月24日(土) 13:30~16:00(開場13:00)
【監督・脚本/製作】バフマン・ゴバディ
【出演】シャハブ・エプラヒミ、アッラモラド・ラシュティアン、ファエグ・モハマディ
【司会】陳天璽(国立民族学博物館・先端人類科学研究部准教授)
【解説】柘植元一(東京芸術大学名誉教授)、福岡正太(国立民族学博物館・文化資源研究センター准教授)
[映画解説]

イラン・イラク戦争終結後、いまだイラク空軍が爆撃をつづけるクルディスタンを舞台にして、パフマン・ゴバディが製作したイラン映画である。したがって登場人物はすべてクルド人で、語られる言葉も歌も歌詞もクルド語である。主演の老楽師ミルザとその二人の息子を演じる俳優は、いずれも本職のクルド・ミュージシャンである。ミルザが語る「歌(ゴラーニー)は永遠だ。人々から歌は取り上げられない」という印象的な台詞に、低空飛行するイラク軍用機の爆音が覆いかぶさる。ミルザはつづけていう。「この轟音。これも歌だ。イラク軍のね」と。
かつて一座の歌手で妻だったハナレがイラクのクルド人難民キャンプから助けを求めていると告げられ、ミルザは元の妻を捜しに息子バラートが運転するオートバイに乗り込んでイラク国境地帯にでかける。いやがるもう一人の息子アウダも同道させるが、この異母兄弟はどちらもハナレとはなさぬ仲だ。道中で警備隊に捕まった時にツアーの途中だと言い訳できるように、この楽師父子は楽器を積み込んで出発する。この珍道中で彼らが奏でるクルド音楽はいずれも絶妙だ。登場するクルドの楽器は、ミルザが奏でるケマンチェ(胡弓)、バラートが吹くネルメネイ(篳篥)とズルナ(チャルメラ)、アウダが叩くデフ(枠太鼓)など。
(柘植元一)

「クルディスタンとクルド人監督バフマン・ゴバディ」

トルコ、イラン、イラク、シリアをまたぐクルディスタンに暮らすクルド民族は、独自の国家を持つことのできない世界最大の民族とも呼ばれ、イラン・イラク戦争など、各国の勢力争いが生む悲劇に見舞われてきた。クルド人監督といえば、トルコ出身のユルマズ・ギュネイの「路」(82)は日本でも話題を呼んだ。イラン出身のバフマン・ゴバディは、アッバス・キアロスタミの助監督などを経て、初長篇「酔っぱらった馬の時間」(00)が、カンヌ国際映画祭で2冠に輝き、続く「わが故郷の歌」(02)、「亀も空を飛ぶ」(04)も賞賛された。いずれも国境近くを舞台に、度重なる紛争下のクルド人、特に子どもたちの痛みを描きつつも、彼らのひたむきな美しさが、深い余韻を残す。
(映画評論家・服部香穂里)

「包摂と自律の人間学 ―国境と民族を越えて―」国立民族学博物館 陳天璽

地球人口が68億人である今日、生地を離れ他国に暮らす移民は2億人に上がり、全人口の約30人に1人にあたります。国境は、人の頻繁な 越境や情報化により、その存在が薄まっているように思えます。民族間の交流や国際結婚も増え、人を民族や国籍別に区別することも難しくなっています。しかし、現代社会は国家や民族、宗教によって人を分類するきらいがあるのも事実です。
それゆえ、はざまにおかれ苦悩を抱えながら生きている人は少なくありません。人の違いを認めて包摂し、移民や無国籍者など社会的マイノリティーが自分らしさを生かして自律できる社会を実現するには、どうすればよいのでしょうか。映画に描かれる一人一人の生き様を通して、国家とは、国籍とは、民族とはなにかについて考え、国境を越えた人と人のつながり、支援のありかたを模索します。

特別上映会 短編「Daf」
2003年/イラン映画/バフマン・ゴバディ監督作品/30分 協力/全州国際映画祭(韓国)
[image]
  • 日時:7月24日(土) 11:00/11:40/16:10
  • 場所:ナビひろば(本館展示場内・要観覧料)

ダフ(クルド語ではデフ)とはイスラーム文化圏で広く用いられる枠太鼓(丸い木枠に皮膜を張った片面太鼓)である。大きなタンブリンを想像すればよい。特徴的なのは、枠の内側に無数の小さな鎖がぶら下がっていて、鼓面を撫でたり打ったり揺すったりすると、それらが共振して神秘的な響きを立てることだ。この短編映画は一口で言えば、クルドの伝統的なダフの製作過程を映像化したものだが、単なるエスノグラフィーを超えた詩的な映画である。クルドのダフ作りの家族が力を合わせて太鼓を手作りする情景がヴィヴィッドに描かれる。枠にする木材や羊の皮を買い求めに行くのは四人の子供たちの役目だ。視覚障害をもつ少年ハミードの鋭い聴覚がとらえる風の音、水の音、炎の音、小刀を研ぐ音、羊の皮を剥ぐ音、動物の鳴き声、小鳥のさえずりがとりわけ印象的だ。(柘植元一)

■お問い合せ先
国立民族学博物館 広報企画室企画連携係
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