国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく映画会

2011年7月9日(土)
裸足の1500マイル
研究領域「包摂と自律の人間学」
新展示フォーラム「どっぷりオセアニア――夏のみんぱくフォーラム2011」関連 

©2002 Australian Film Finance Corporation Limited, The Premium Movie Partnership, South Australian Film Corporation and jabal Films Pty Ltd.

国立民族学博物館では、2009年秋から開始した機関研究<包摂と自律の人間学>のテーマにあわせて、研究者による解説付きの上映会「みんぱくワールドシネマ」を始めました。第3期は<家族から社会を見る>をキーワードに映画上映を展開していきます。今回は、どっぷりオセアニア――夏のみんぱくフォーラム2011に関連した"映像で見るアボリジニ:1930年代と現代1"として、植民地時代のオーストラリアの政策により家族から引き離された、アボリジニの少女たちの勇気ある逃避行を描いた「裸足の1500マイル」を上映いたします。先住民族アボリジニのたどってきた苦難の歴史を、皆さんと一緒に学んでいきたいと思います。

  • 日 時:2011年7月9日(土) 13:30~16:00(開場13:00)
  • 場 所:国立民族学博物館 講堂
  • 定 員:450名
    • 整理券は10:00より講堂入口にて配布いたします。
    • 整理券をご提示いただくと、オセアニア展示が新しくなった本館展示を無料でご覧いただけます。
    • 事前申込は不要です。
  • 参加料:無料
  • 主 催:国立民族学博物館
  • チラシダウンロード[PDF:1.42MB]

みんぱくワールドシネマ 映像に描かれる<包摂と自律> ―家族から社会を見る― 第11回上映会

どっぷりオセアニア――夏のみんぱくフォーラム2011 関連 映像で見るアボリジニ:1930年代と現代1

「裸足の1500マイル」 / Rabbit-Proof Fence
2002年/オーストラリア映画/英語/94分/日本語字幕つき
【開催日】2011年7月9日(土)13:30~16:00(開場13:00)
【監督】フィリップ・ノイス
【出演】エヴァーリン・サンピ/ケネス・ブラナー
【司会】白川千尋(国立民族学博物館・先端人類科学研究部准教授)
【解説】久保正敏(国立民族学博物館・文化資源研究センター教授)
「映画解説」

1931年、時のオーストラリア政府の先住民族アボリジニ政策により、保護施設に強制収容された混血のアボリジニ少女たちが、母に逢いたい一心で、1500マイル=2400キロメートルもの道のりの脱走を敢行した、驚異の実話の映画化。製作には国際色豊かな才能が結集し、オーストラリア国内で映画賞を総なめ、世界中でヒットした。生活に根差した知恵を駆使する少女たちと、イギリスの名優ケネス・ブラナーが演じるアボリジニを徹底的に見下す保護局長や、原住民の追跡人との息詰まる攻防が、様々な表情を見せる大自然の映像に描かれる。いかなる試練にも挫けぬ健気な少女や、娘を信じて待ち続ける母たちの凛々しき姿に、生への活力が湧いてくる好篇だ。(服部香穂里)

盗まれた世代とオーストラリア先住民政策

1788年の入植以降、白人政府によるアボリジニ政策は、「保護政策」「保護隔離政策」を経て、前世紀前半には「同化政策」へと進んだ。これは、生物進化論を誤用し、混血アボリジニを何世代も白人と混血させて生物学的に白人に吸収するため、特に混血女児を実の親から引き離して白人社会に組み入れ白人男性との混血を奨励するもの。1970年代初めまで続いたこの政策は、後に「盗まれた世代」とよばれる10万人に及ぶ人びとを生み出した。現在のアボリジニの多くの縁者がその世代であり、シドニー五輪のヒロイン、キャシー・フリーマンの祖母もその一人だ。
この映画は、従来のアボリジニ政策を総括する1990年代以降の動きの中で生まれた。原題の「ウサギよけフェンス」は、イギリスから食用やスポーツ狩猟用に輸入され、その後猛烈に増えて牧畜業の大脅威となった野生ウサギを防ぐために作られたフェンスを指す。映画に登場する8000kmに及ぶフェンスもその一例で、映画では少女たちの逃避行の道しるべだが、いまだ圧倒的に優位な白人文化と、根強い差別に苦しむアボリジニ文化とを隔てるフェンスの象徴とも見なせる。(久保正敏)

「包摂と自律の人間学―家族から社会を見る―」 国立民族学博物館 鈴木紀

「包摂と自律」とは、社会の中で一人ひとりの存在が認知され、かつ尊重されることを意味します。だれもが自分らしく生きるためには、仲間はずれにされることなく、さりとて誰かのいいなりになるのでもない、適切なバランスが求められます。こうした状態を具体的に思い描くために、家族の姿に着目してみましょう。家族は社会から区切られた私的な空間ですが、社会の影響は家族の中にもいやおうなしに浸透し、家族の運命を揺さぶります。ある者の願いが、社会の変化や国家の制度と相いれないない時、その家族はどのようにふるまえばよいのでしょうか。映画に描かれた世界各地の家族の葛藤と、それを乗り越えるための工夫、そして他者からもたらされる支援の受け止め方を振り返ることにより、「包摂と自律」を身近な問題として考えていきましょう。

■お問い合せ先
国立民族学博物館 広報企画室企画連携係
〒565-8511 大阪府吹田市千里万博公園10-1
Tel: 06-6878-8210(平日9:00~17:00)