国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく映画会

2012年2月19日(日)
パチャママの贈りもの
研究領域「包摂と自律の人間学」
新展示フォーラム「たっぷりアメリカ―春のみんぱくフォーラム2012」関連 

チラシダウンロード[PDF:3.88MB]

国立民族学博物館では、2009年秋から開始した機関研究<包摂と自律の人間学>のテーマにあわせて、研究者による解説付きの上映会「みんぱくワールドシネマ」を始めました。第3期は<家族から社会を見る>をキーワードに映画上映を展開していきます。今回は「たっぷりアメリカ―春のみんぱくフォーラム2012」にあわせて、日本・アメリカ・ボリビア合作「パチャママの贈りもの」を上映します。南米ボリビア・アンデス高地の雄大な自然を舞台に、塩キャラバンに出かける先住民族の親子とその家族の生活を通して、南アメリカの現在の状況を、皆さんと一緒に知っていきたいと思います。

  • 日 時:2012年2月19日(日) 13:30~16:00(開場13:00)
  • 場 所:国立民族学博物館 講堂
  • 定 員:450名
    • 整理券は10:00より講堂入口にて配布いたします。
    • 整理券をご提示いただくと、アメリカ展示が新しくなった本館展示を無料でご覧いただけます。
    • 事前申込は不要です。
  • 参加料:無料
  • 主 催:国立民族学博物館

みんぱくワールドシネマ 映像に描かれる<包摂と自律> ―家族から社会を見る― 第13回上映会

たっぷりアメリカ―春のみんぱくフォーラム2012 関連

「パチャママの贈りもの」 / El Regalo de la Pachamama
2009年/日本・アメリカ・ボリビア合作/ケチュア語・アイマラ語・スペイン語/103分/日本語字幕つき
【開催日】2012年2月19日(日) 13:30~16:00(開場13:00)
【監督】松下俊文
【出演】クリスチャン・ワイグア ルイス・ママーニ
【司会】鈴木紀(国立民族学博物館・先端人類科学研究部准教授)
【解説】関雄二(国立民族学博物館・研究戦略センター教授)
「映画解説」

南米ボリビアのアンデス高地の、雪景色かと見まがうばかりに真っ白に広がる雄大なウユニ塩湖を舞台に、先住民族であるケチュア族の一家の暮らしを見つめた人間ドラマ。本作で長篇デビューを飾る松下俊文監督が、異邦人のスタンスを保ちつつ、未だ独特の風習が残る先住民族や、ケチュア語で"母なる大地の神"を意味する"パチャママ"への畏敬の念を込めて、6年もの歳月をかけて丹念に撮り上げた。元気盛りのコンドリ少年は、引退した祖父に代わり、父親とともに切り出した塩の層を運搬するキャラバンに初めて参加する。車両輸送の増大や貨幣経済の浸透に抗うかのように、カラフルな鈴の耳飾りが愛らしいリャマの一群を率いる父子は、各地で訪問を心待ちにしている人々のために、険しい道を辿りながら塩を届けて回る。3ヶ月に及ぶ長旅の中で、父親への小さな反発や、道中で出逢った少女へのほのかな恋心などに揺れながら、頼もしく成長を遂げていく少年の姿を通して、松下監督は、アンデスの先住民の子どもたちに、ささやかなエールを送っている。(服部香穂里)

伝統的経済のしたたかさ

今、南米は揺れ動いている。ベネズエラ、エクアドル、ボリビアに続き、ペルーでも民族主義を標榜する左翼政権が樹立し、日々流れるニュースには社会的包摂の言葉が飛び交う。90年代に隆盛を極めた新自由主義経済への貧困層の反発とみえるこうした動きは、じつは資本主義経済の拒絶というよりも、同じ舞台に立つ資源大国としての逆襲ともいえる。麻薬の原材料であるコカを伝統的嗜好品として合法化するボリビアのモラレス政権とて、映画の舞台となった美しいウユニ塩湖のリチウム開発の利権をめぐり先進国を手玉にとる余裕を見せる。だからこそ市場経済が伝統的経済を駆逐するという単純な図式だけでは現状を理解することはできない。伝統的経済に付随する環境の利用や人間集団の紐帯こそが自然環境を守り、先進国の人々の憧憬の対象を生みだし、観光開発を誘致することだってある。失われつつある伝統へのノスタルジックな眼差しこそ、市場経済の中にどっぶりと浸かりながらも、伝統を育む力として作用しているのである。ほら、あなたもウユニに行ってみたくなったでしょう。(関雄二)

「包摂と自律の人間学―家族から社会を見る―」国立民族学博物館 鈴木紀

「包摂と自律」とは、社会の中で一人ひとりの存在が認知され、かつ尊重されることを意味します。だれもが自分らしく生きるためには、仲間はずれにされることなく、さりとて誰かのいいなりになるのでもない、適切なバランスが求められます。こうした状態を具体的に思い描くために、家族の姿に着目してみましょう。家族は社会から区切られた私的な空間ですが、社会の影響は家族の中にもいやおうなしに浸透し、家族の運命を揺さぶります。ある者の願いが、社会の変化や国家の制度と相いれないない時、その家族はどのようにふるまえばよいのでしょうか。映画に描かれた世界各地の家族の葛藤と、それを乗り越えるための工夫、そして他者からもたらされる支援の受け止め方を振り返ることにより、「包摂と自律」を身近な問題として考えていきましょう。

■お問い合せ先
国立民族学博物館 広報企画室企画連携係
〒565-8511 大阪府吹田市千里万博公園10-1
Tel: 06-6878-8210(土日祝を除く9:00~17:00)