国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく映画会

2014年5月31日(土)
マイネーム・イズ・ハーン
研究領域「包摂と自律の人間学」

チラシダウンロード[PDF:6.11MB]

国立民族学博物館では、2009年秋から開始した機関研究<包摂と自律の人間学>のテーマにあわせて、研究者による解説付きの上映会「みんぱくワールドシネマ」を実施しています。第6期は<多文化を生きる>をキーワードに映画上映を展開していきます。今回はインド映画「マイネーム・イズ・ハーン」です。インドからアメリカに移住したアスペルガー症候群を患うイスラム教徒のインド人のリズワン・ハーンが、9.11テロ以降に顕著になった差別と偏見を乗り越えるまでの愛と勇気の旅物語を通して、異文化に生きる人々について皆さんとともに考えていきたいと思います。

  • 日 時:2014年5月31日(土)13:00~16:30(開場12:30)
  • 場 所:国立民族学博物館 講堂
  • 定 員:450名
    • 入場整理券を10:00から講堂入口にて配布いたします。
    • 事前申込は不要です。
  • 参加料:無料
         ※ただし、展示観覧券(一般 420円)が必要です。
  • 主 催:国立民族学博物館
 

● みんぱくワールドシネマ 映像に描かれる<包摂と自律>―多文化を生きる― 第26回上映会

マイネーム・イズ・ハーン My Name Is Khan
2010年/インド映画/ヒンディ−語・英語/162分/日本語字幕付き <日本劇場未公開>
【開催日】2014年5月31日(土) 13:00~16:30(開場12:30)
【監督】カラン・ジョーハル
【出演】シャー・ルク・カーン、カージョル
【司会】鈴木紀(国立民族学博物館准教授)
【解説】三尾稔(国立民族学博物館准教授)
「映画解説」

9.11テロから歴史的な新政権の誕生へと、激動する現代のアメリカを舞台に、障害やイスラーム(イスラム教)への偏見と闘いつつ、持ち前の人間力で、物騒な社会に旋風を巻き起こすインド人を、大スターのシャー・ルク・カーンが繊細に好演した、日本劇場未公開の逸品。惜しみない愛情を注ぎ育ててくれた母亡き後、弟の暮らすサンフランシスコに移り住むアスペルガー症候群の青年は、ヒンドゥー教徒のシングルマザーと、数々の障壁を乗り越えて結ばれるが、2001年の同時多発テロ事件が、イスラム教徒への異様な反発を生むなか、幸福を奪い去る悲劇が起こる。失いかけた妻の愛を取り戻すため、ある約束を胸に旅を続ける彼の、ハリケーンの被災地などでのひたむきな行動が、マスメディアを介して、盲目的な憎しみや理不尽な暴力への恐怖に囚われた人々の心をも、突き動かしていく。移り気な世の中に流されず、揺るがぬ信念や誇りを拠り所に、自らの正義を貫く主人公の奮闘に、我が身も大いに鼓舞される、映画大国が放つ骨太なエンターテインメントの快作だ。 (映画評論家 服部香穂里)

自分たちと他者をつなぐもの

アメリカはインド系移民にとっても夢のかなう希望の地であった。特に本国の経済改革や自由化が進んだ1990年代以降アメリカへの移民の波は加速し、1990年の81万人から2000年の167万人へと倍増する(2010年には284万人)。これはアジア系移民の中では中国系、フィリピン系に次ぐ人口である。彼らは高学歴高収入で、IT産業やホテル産業、医療分野などで成功する人々が多数生まれ、アメリカの移民のなかでも模範とされる存在となった。しかし、2001年9月11日の同時多発テロ事件はその希望に暗い影を落とした。この事件以後アメリカ主流住民によるアラブ系住民やイスラーム(イスラム教)への敵意が増すなかで、インド系住民もアラブ系と同一視され激しい憎悪の対象となったのである。インド系のヒンドゥー教徒やスィク教徒のなかには自らを防衛するためインド系のなかでも少数派のイスラム教徒を差別する動きも生じた。憎悪が新たな憎悪を生み、集団の中の潜在的な亀裂を明るみに出す。本作の主人公たちもこの憎悪の連鎖に巻き込まれてゆく。「私たち」をつくる意識は他者意識と裏腹な関係にある。自他意識は憎悪によってしか生じないのか。自他は別のやり方でつながれないのか。本作の問いは現代日本を生きる私たちにも決して無縁のものではない。 (三尾稔)

「包摂と自律の人間学―多文化を生きる人々の映画を見る―」国立民族学博物館 鈴木紀

国内外を問わず自分の故郷を離れて異郷に暮らす時、私たちは必ずマイノリティ(少数者)になります。そこが安住の地となるか否かは、周囲の人々が私たちをどのように包摂するか、そして私たち自身がどれだけ自律しているかにかかっています。隣人から暖かく迎えられ、自分に自信が持てると、居心地がよいものです。ところがその安堵感は、些細なうわさや事件、予期せぬ災害や不景気などをきっかけに、暗転することもあります。社会のストレスはしばしば、少数者に向けられるからです。このような緊張感は、<移民>や<外国人労働者>など、多文化環境に生きる人々を描く映画からうかがい知ることができます。まずは少数者の目線にたって、その境遇を実感してみましょう。次に多数者の目線から、少数者の葛藤を眺めてください。そうすれば映画を見終わってみんぱくを出た途端、慣れ親しんだ私たちの日常生活が少し違って見えてくるかもしれません。

関連イベント

展示場ミニレクチャー
  • 日時:2014年5月31日(土) 11:00~11:30(予定)
  • 場所:国立民族学博物館 本館展示場(南アジア展示[神がみと人間セクション])
  • 参加無料 ※要展示観覧券/申込不要
  • 詳しくはこちら
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国立民族学博物館 広報企画室企画連携係
〒565-8511 大阪府吹田市千里万博公園10-1
Tel: 06-6878-8210(土日祝を除く9:00~17:00)