国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく映画会

2018年6月9日(土)
少女は自転車にのって

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国立民族学博物館では2009年度から、研究者による解説付きの上映会「みんぱくワールドシネマ」を実施しています。10年目の今期は昨年に引き続き、<人類の未来>をキーワードに映画上映を展開していきます。今回はサウジアラビア=ドイツ合作の「少女は自転車にのって」を上映します。明朗活発な10歳の少女ワジダの日常生活や願いをとおして、サウジアラビアにおける女性の状況について知りたいと思います。

  • 日 時:2018年6月9日(土)13:30~16:00(開場13:00)
  • 場 所:国立民族学博物館 講堂
  • 定 員:450名
    ※入場整理券を11:00から講堂前(本館2F)にて配布します。事前申込は不要です。
  • 要展示観覧券(一般 420円)
  • 主 催:国立民族学博物館
 

● みんぱくワールドシネマ 映像から考える<人類の未来>
第41回上映会

少女は自転車にのって Wadjda
2012年/サウジアラビア・ドイツ/97分/アラビア語/日本語字幕付き
【開催日】2018年6月9日(土)13:30~16:00(開場13:00)
【監督・脚本】ハイファ・アル=マンスール
【主演】ワアド・ムハンマド アブドゥルラフマン・アル=ゴハニ
【司会】鈴木紀(国立民族学博物館准教授)
【解説】菅瀬晶子(国立民族学博物館准教授)
「映画解説」

昨年、自動車の運転を女性にも認める国王令が出され話題を呼ぶなど、女性への抑圧が強いサウジアラビアを舞台に、自分の自転車で颯爽と走ることを夢見る少女の成長を見守る人間ドラマ。ラジオから流れる音楽を愛し、おしゃれにも敏感な10歳のワジダは、仲良しの少年の何気ない一言に奮起し、乗れもしない自転車を買おうと思い立つ。緑色のお気に入りを手に入れるべく、手製のミサンガを売ったり、上級生の逢引きを手助けしたりと小銭を稼ぐが、目標額800リヤルに遠く及ばない中、学校で賞金1000リヤルのコーラン暗唱コンテストが開催されることに。自身の私生活は棚に上げ、生徒を厳しく縛る校長や、男児を産めず、第二夫人候補の気配に苦悩する母ら大人の事情を垣間見ながら、ワジダは苦手なコーランの猛勉強に励む。長篇劇映画デビューを飾る女性監督ハイファ・アル=マンスールは、学校でも家庭でもままならない現実にささやかな抵抗を試みる少女のたくましさに、窮屈な日常を強いられてきた同胞女性の未来を託す。全篇サウジアラビア国内で撮影された画期的な本作は、ヴェネツィア国際映画祭ほか数々の映画賞で評価された。(映画評論家 服部香穂里)

自転車にのって、少女はどこへゆく?

サウジアラビア制作の初の長編映画、しかも監督は女性。はじめて尽くしの画期的な作品であるが、そのメッセージは普遍的である。人はすべて平等である。社会的弱者におとしめられてきた女性やマイノリティも、望みのままに生きる権利があるのだと、シンプルな物語にのせて雄弁に訴えてくる。
女性が一人で外出することすら難しいこの国では、10歳の少女が自転車に乗り、男の子と競争など、非常識きわまりない。しかし、母親や天敵の校長先生にいくら叱責されても、ワジダは諦めない。そんな彼女に、周囲の人びとも揺り動かされてゆく。母親は自分から心が離れた夫から自立したいと願い、ワジダをからかっていた近所の少年も、彼女に自転車の乗り方を教え、心の支えになろうとする。自転車を売る雑貨屋の主人も、実はワジダを応援している。彼女の望みに無関心なのが、家父長制の象徴である父親と、ことあるごとに権力をふりかざす校長という点が象徴的だ。
女性の自由意思が制限されてきたサウジアラビアだが、近年急速に状況が変わりつつある。2012年に制作された本作は、まさにその前触れを告げるものとなった。ヒジャーブがずれてあらわになった髪をなびかせ、パンク精神の象徴コンバースを履いてペダルをこぎ、表通りを疾走する。そんな夢を抱いた幾人ものワジダたちが、今後サウジアラビアを変えてゆくのではないだろうか。(菅瀬晶子)

 
映像から考える<人類の未来>国立民族学博物館 鈴木紀

国立民族学博物館では2016年度より特別研究「現代文明と人類の未来─環境・文化・人間」を開始しました。これは、現代文明の諸課題に対して解決志向型のアプローチをとる研究です。現代文明は物質的な豊かさと普遍的な価値観を広めましたが、同時に環境破壊や文化摩擦を生み出しています。民族学や文化人類学の立場からは、現代文明の矛盾はどのように現れるのか、そしてその解決策は何かを、地域社会や民族文化に視点を据えて考えることが重要です。みんぱくワールドシネマのねらいは、この特別研究の問題意識を来館者の皆様と共有することにあります。世界の映画をとおして、現代文明を問い直し、多元的な価値が共存する人類の未来を展望したいと思います。

■お問い合せ先
国立民族学博物館 企画課博物館事業係
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