国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく映画会

2018年9月24日(月・休)
僕たちの家に帰ろう

チラシダウンロード[PDF:3.6MB]

国立民族学博物館では2009年度から、研究者による解説付きの上映会「みんぱくワールドシネマ」を実施しています。10年目の今期は昨年に引き続き、<人類の未来>をキーワードに映画上映を展開していきます。今回は中国北西部”河西回廊”を舞台に、ユグル族の兄弟が、離れて暮らす両親の元へ向かう、過酷な砂漠の旅を描く中国映画「僕たちの家に帰ろう」を上映します。二人が道中で出会う人びとや出来事をとおして、現代が失いつつある民族の文化、自然環境について知りたいと思います。

  • 日 時:2018年9月24日(月・休)
        13:30~16:30(開場13:00)
  • 場 所:国立民族学博物館 セミナー室(本館2階)
      ※メイン会場が満席の場合は館内の他会場を
       ご案内します。
      ※参加券を11:00からインフォメーション前(本館1階)
       にて配布します。
  • 要展示観覧券(一般 420円)
  • 主 催:国立民族学博物館
 

● みんぱくワールドシネマ 映像から考える<人類の未来>
第42回上映会

僕たちの家に帰ろう 家在水草豐茂的地方 River Road
2014年/中国/103分/テュルク語・北京語/日本語字幕付き
【開催日】2018年9月24日(月・休)13:30~16:30(開場13:00)
【監督・脚本】李睿珺(リー・ルイジュン)
【主演】湯龍(タンロン) 郭嵩濤(グオ・ソンタオ) 白文信(バイ・ウェンシン)
【司会】鈴木紀(国立民族学博物館准教授)
【解説】小長谷有紀(国立民族学博物館教授)
「映画解説」

かつてシルクロードの一部として繁栄しながらも、深刻な草原の砂漠化が進む中国北西部の河西回廊を舞台に、少数民族ユグル族の幼い兄弟が、水を求めて遊牧を続ける両親に逢うため旅する姿を追う人間ドラマ。弟の出産後、病気がちな母と別れて祖父母に預けられた兄は、自分を“要らない子”と卑下し、弟をうらやんでいた。その一方で、現在は学校の寮で寝起きする弟も、兄のお下がりばかり与えられる境遇に不満を抱いていた。待望の夏休みが始まっても父が迎えに現れなかったため、ふたりはラクダにまたがり父母を探しに出かけるが、荒れ果てた自然や廃墟と化す村や遺跡など、近代化の爪痕を次々と目の当たりにする。生まれ育った場所を撮影地に選んだリー・ルイジュン監督は、栄華を誇っていたユグル族の悲運と、中国社会の変動とを重ね合わせ、不意に舞い込む幻想的なシーンに、二度と戻らぬ失われたものへの愛惜の情をにじませる。父を敬い遊牧生活を純粋に夢見る弟と、その様子を冷静に見つめるおじいちゃんっ子の兄との、衝突しつつ成長する旅の終わりに待つ息を呑む光景に、さまざまな思いが駆けめぐる余韻深い力作だ。(映画評論家 服部香穂里)

中国における環境と民族のゆくえ

舞台は中国甘粛省、主人公は裕固(ユグル)族。彼らは、北方遊牧民の攻防史を反映して、テュルク語を話す集団とモンゴル語を話す集団を含む。さらに、チベット文化の影響も強く受けている。7世紀にモンゴル高原にウィグル可汗(カガン)国を建てたテュルク系遊牧民は、9世紀にキルギス族に追われて祁連(キレン)山脈で王国を建てたが、11世紀にはチベット系タングート族の西夏に滅ぼされ、さらに13世紀にはモンゴル族の建てた元朝に支配された。こうして複合的な民族集団が形成されて今日に至っている。21世紀を生きる彼らの悩みは草原の劣化である。「都市化」「農耕化」さらには「金の採掘」により草原が傷み、ラクダを飼う暮らしを続けるには町から遠く離れて放牧しなければならない、という設定で物語は展開する。ここ中国北西部の乾燥地域における環境問題は民族問題でもあるのだ。
愛憎半ばする兄弟が、遠牧する家族のもとへ、つかず離れずの旅を続ける。ただそれだけなのに、スクリーンから目が離せない。少年たちの視線を通じて、生活がリアルに感じられる。とくに、艱難辛苦から彼らを守るラクダたちの、巧まざる名演技がリアリティをいや増す。(小長谷有紀)

 
映像から考える<人類の未来>国立民族学博物館 鈴木紀

国立民族学博物館では2016年度より特別研究「現代文明と人類の未来─環境・文化・人間」を開始しました。これは、現代文明の諸課題に対して解決志向型のアプローチをとる研究です。現代文明は物質的な豊かさと普遍的な価値観を広めましたが、同時に環境破壊や文化摩擦を生み出しています。民族学や文化人類学の立場からは、現代文明の矛盾はどのように現れるのか、そしてその解決策は何かを、地域社会や民族文化に視点を据えて考えることが重要です。みんぱくワールドシネマのねらいは、この特別研究の問題意識を来館者の皆様と共有することにあります。世界の映画をとおして、現代文明を問い直し、多元的な価値が共存する人類の未来を展望したいと思います。

■お問い合せ先
国立民族学博物館 企画課博物館事業係
〒565-8511 大阪府吹田市千里万博公園10-1
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Fax:06-6878-8242