国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく映画会

2019年6月16日(日)
サーミの血

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国立民族学博物館「みんぱく映画会・みんぱくワールドシネマ」は研究者による解説付きの映画上映会です。11年目となった今期も、<人類の未来>をキーワードに映画上映を展開していきます。今回は、1930年代のスウェーデンを舞台にしたスウェーデン・ノルウェー・デンマーク合作「サーミの血」を上映いたします。独自の言語と文化を持つサーミ人の少女が、国の分離政策によって差別的な扱いを受け、自らのルーツと葛藤しながら成長し生きる姿をとおして、民族のアイデンティティについて考えたいと思います。

  • 日 時:2019年6月16日(日)
        13:30~16:30(開場13:00)
  • 場 所:国立民族学博物館 特別展示館
  • 定 員:350名
    ※参加券を11:00から特別展示館入口にて配布します。事前申込は不要です。
  • 要展示観覧券(一般 580円)
  • 主 催:国立民族学博物館
 

● みんぱくワールドシネマ 映像から考える<人類の未来>
第45回上映会

サーミの血 Sameblod
2016年/スウェーデン・ノルウェー・デンマーク/108分/南サーミ語・スウェーデン語/日本語字幕付き
【開催日】2019年6月16日(日)13:30~16:30(開場13:00)
【監督・脚本】アマンダ・シェーネル
【出演】レーネ=セシリア・スパロク ミーア=エリーカ・スパロク マイ=ドリス・リンピ
【司会】鈴木紀(国立民族学博物館 教授)
【解説】庄司博史(国立民族学博物館名誉教授)
「映画解説」

スカンジナビア半島北部の先住民族サーミが分離政策の対象とされていた1930年代のスウェーデンを舞台に、不当な差別や偏見に抗い、自身の生き方を模索する少女の孤独な奮闘を描く人間ドラマ。トナカイの放牧を営む親元を離れ、甘えたがりの妹とともに、サーミ語を禁じる寄宿学校に通うエレ・マルャは、浴びせられる心ない言葉や好奇の目に憤りつつ、外の世界への憧れを胸に勉学に励んでいた。サーミ人を劣等とみなしその尊厳を疎かにする研究結果に、進学の夢を阻まれたエレ・マルャは、スウェーデン人に成りすました夏祭りで好意を抱いた青年を頼り、都会で再出発を志すが、厳しい現実が立ちはだかる。本作で長篇デビューを飾るアマンダ・シェーネル監督は、出自をひた隠しにしていたサーミ人の祖父母への複雑な想いなどに突き動かされ、物語を構築。生き別れた妹の葬儀のため、久々に帰郷する年老いた姉の回想形式をとることで、自ら選んだはずの人生で彼女が手にしたものと失ったものの意義や重みが、より切実に伝わってくる。実の姉妹でもあるサーミ人の少女たちがリアルに演じる葛藤が、民族にまつわるさまざまな問題の根深さを改めて突きつける、ヴェネツィアや東京など数々の国際映画祭で受賞した話題作だ。(映画評論家 服部香穂里)

「サーミ」とともに生きた少女エレ・マルャ

北欧のトナカイ遊牧民として紹介されてきたサーミ人が、偏見のこもった「ラップ」人から、自らの呼称「サーミ」で呼ばれるようになったのは、北欧でも20〜30年前にすぎない。この映画の舞台となったのは1930年代のスウェーデンである。当時サーミ人は、すすとほこりまみれでテント生活を続ける、文明生活には適応できない未開の民という強い先入観と人種差別に囲まれていた。独善的な隔離政策により都会への進学の道が閉ざされていたなか、トナカイ村出身の少女エレ・マルャは、厳格なサーミ人寄宿舎学校で学ぶ間に教師となることを志し、故郷とともにサーミ人であることを捨てる決心をする。名を替え、仲間のサーミ人を蔑むことで多数派社会へ必死にとけ込もうと努力するが、周囲からの好奇の視線は容赦しない。作品中、強い印象をあたえるのは、サーミ人の叙情歌謡ヨイクだ。ことばを纏わない、細やかな個人的感情と民族的情感発露の表現手段とされるヨイクは、特異性からしばしば奇習として嘲笑されてきた。にもかかわらずヨイクにくりかえし自らを委ねるかれらの心情をヨイクから読みとってみたい。(庄司博史)

 
映像から考える<人類の未来>国立民族学博物館 鈴木紀

国立民族学博物館では2016年度より特別研究「現代文明と人類の未来─環境・文化・人間」を開始しました。これは、現代文明の諸課題に対して解決志向型のアプローチをとる研究です。現代文明は物質的な豊かさと普遍的な価値観を広めましたが、同時に環境破壊や文化摩擦を生み出しています。民族学や文化人類学の立場からは、現代文明の矛盾はどのように現れるのか、そしてその解決策は何かを、地域社会や民族文化に視点を据えて考えることが重要です。みんぱくワールドシネマのねらいは、この特別研究の問題意識を来館者の皆様と共有することにあります。世界の映画をとおして、現代文明を問い直し、多元的な価値が共存する人類の未来を展望したいと思います。

 

○ お問い合わせ
国立民族学博物館 企画課 博物館事業係
TEL:06-6878-8210(土日祝を除く9:00~17:00)
※手話通訳を希望される方は、5月24日(金)までにメールまたはFAXでご連絡ください。
E-mail:hjigyo★minpaku.ac.jp(★を@に置き換えて送信ください)
FAX:06-6878-8242