国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

研究公演

2001年10月25日(木)
西ジャワの民衆舞踊クトゥック・ティル

クトゥック・ティルは、もともと三つ(ティル)の小型ゴング(クトゥック)を中心とした合奏音楽および、それを伴奏とした舞踊をさします。インドネシア、西ジャワをふるさととするスンダ人の代表的な民衆芸能のひとつに数えられ、そのダイナミックな音楽と舞踊は、今日、しばしば舞台用にアレンジされ上演されています。

東南アジアにひろがるゴング・チャイム(複数の小型ゴングからなる楽器)を中心とした合奏音楽、およびスンダ人の多様な民衆舞踊の一例として、このクトゥック・ティルを紹介します。

公演は、スンダ伝統音楽の教育に長年従事し、音楽舞踊作品を多数創作してきたナノ・スラトノ氏をリーダーとしたグループを迎えます。

プログラム
1.タタル
楽器による前奏曲。
2.タリ・ミダン・キナシ(女性3人による舞踊)
伝統的なクトゥック・ティルをもとに新しく創られた舞踊。女性の踊り手ロンゲンの美しさを描いています。
3.タリ・ガラガ(男性1人による舞踊)
この踊りは、普通、グループのリーダーが踊ります。きびきびとした動きにユーモラスな動きを加えられています。
4.タリ・チクルハン(男女のペアによる踊り)
男女のペアによる踊り。ユーモラスな動きも交えながら、男女のやりとりを描いています。
5.一緒に踊ってみよう
踊り手の皆さんが、踊りの基本的な姿勢や簡単な動きを指導してくれます。曲のリズムに合わせて一緒に踊ってみましょう。
 


クトゥック・ティルとは?
写真インドネシア、ジャワ島西部をふるさととするスンダ人は、生き生きとした躍動的な芸能をもっていることでよく知られています。クトゥック・ティルはそうした芸能の代表的な例のひとつで、スンダ人の民衆のあいだで楽しまれてきました。もともと、3つ(ティル)の小型ゴング(クトゥック)を中心とした合奏音楽およびそれを伴奏とした舞踊をさします。
 

クトゥック・ティルに使う楽器

クトゥック
ボナン小型ゴングのこと。現在は、こぶのようなでっぱりをもつ小型ゴングを10~14個ならべた楽器ボナンを使って演奏することが多くなっています。このような複数の小型ゴングからなる楽器は、インドネシアだけではなく広く東南アジア各地にみられます。音楽研究者は、これらの楽器をゴング・チャイムとよんでいます。それぞれのゴングは違う音の高さに調律してあり、メロディを演奏することができます。
 
ゴオンとクンプル
ゴオンどちらも吊り下げ式のゴングで、大きいほうをゴオン、小さい方をクンプルとよびます。ゴオンは、最も大事な節目となる拍でならされます。
 
クンダン
クンダン太鼓。大型の太鼓をひとつ、小型の太鼓を2~3個使うのが普通です。スンダ人のクンダンは、大型太鼓の膜面をかかとで押さえながら音を変化させる奏法が特徴的です。太鼓のリズム・パターンは、踊りの動きと深く結びついていて、踊りの動きのひとつひとつに決まった太鼓のリズム・パターンがあります。
 
ルバッブ
ルバッブ2本の弦を弓でこすって演奏する胡弓のなかまの楽器です。複雑で微妙な旋律をかなで、女性歌手による歌をリードします。
 
クチュレ
金属板を何枚か重ね、それをバチでうつ楽器。クンダンと一緒に踊りの動きにぴったりと合ったリズム・パターンを演奏します。
クトゥック・ティルの演奏には、これらの楽器のほかに、シンデンとよばれる女性歌手が加わります。
 

クトゥック・ティルの踊り
写真クトゥック・ティルの女性の踊り手は、かつてロンゲンとよばれていました。クトゥック・ティルのグループがやってくると、若くきれいなロンゲンの踊りを見るために、多くの人が集まったと言われています。男女のペアで踊ることもありました。クトゥック・ティルは、きびきびとしたダイナミックな動きを特徴としています。とくに男性の踊りには、日本の空手にあたるようなプンチャ・シラットの型なども取りいれられています。スンダの人びとの間では人気が高く、今日ではクトゥック・ティルをもとに、たくさんの新しい舞踊がつくられ、舞台で上演されています。
 
スンダ人
スンダ人は、ジャワ島西部のバンドゥンを中心とするプリアンガン地方をふるさととし、スンダ語を日常的に話す人びとです*。インドネシアは、多くの民族集団をかかえる多民族国家として知られていますが、その中でスンダ人は、約2億人のインドネシアの全人口の約15%を占めると言われています。
*インドネシアの国語はインドネシア語ですが、ジャワ人、バリ人、ミナンカバウ人など、それぞれの民族集団の中では、日常的にそれぞれの言葉(ジャワ語、バリ語、ミナンカバウ語など)が使われています。
 

演奏:グントラ・マディア
グントラ・マディアとは「若い声」という意味で、作曲家ナノ・スラトノさんをリーダーに、伝統芸能の継承と発展につくす若い芸術家たちが集まって1972年に結成されました。インドネシア国内での演奏活動のほか、これまで香港、台湾、韓国、日本、タイ、フィリピン、カナダ、アメリカ、サウジアラビア、オーストラリア等で公演の経験があります。今回来日するメンバーは次の方々です。
ナノ・スラトノ(リーダー、楽器演奏)、デニアルサ(歌)、バルレン・ストリスナ(楽器演奏、踊り)、ママン・スルヤマン(楽器演奏)、アグス・ルスタンディ(楽器演奏)、リアン・サファリナ(踊り)、アデ・スルヤニ(踊り)、リア・ムルヤワティ(踊り)
 
リーダーのナノさんからのメッセージ
ナノさん夫婦 伝統芸能は、たくさんの人びとの手により時代から時代へと受け継がれながら現在の形になってきました。自分たちの国や民族を大切に思うなら、伝統芸能も大切にしなければなりません。伝統芸能は、民族の個性を支えるものであり、私たちの過去や未来から切り離して考えることができないからです。現在、たくさんの伝統芸能が、時代に合わないからと失われつつあります。若い人びとの中には、伝統芸能に見向きもしない人たちもいます。けれども、ぜひ、伝統芸能を大切にして未来へと伝えていってほしいと思います。