国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

地域テーマ展示「ヨーロッパ地域の文化:クリスマスからイースターへ─ヨーロッパにおけるキリスト教と民間信仰」

ヨーロッパにおけるキリスト教と民間信仰

ヨーロッパの季節をいろどるクリスマスやイースターなどの宗教行事は、キリスト教にもとづいています。しかし、その背後にはキリスト教がひろまる以前のさまざまな慣習がいきづいています。

クリスマスを飾るツリーは、古代ゲルマン人の樹木崇拝とかかわっています。ツリー自体の由来は、中世に教会の前でおこなった宗教劇でもちいられた禁断の木の実がなる木だといわれますが、樹木に聖なる力を感じた古代の人びとの慣習が、キリスト教のなかに取りいれられたものでしょう。


クリスマスに欠かせないのはもうひとつ、イエスの生誕の場面をかたどった馬小屋の模型です。お祝いに駆けつけた東方の三博士、羊飼いなどの人形が各家庭に飾られます。また、子どもたちのために日めくり式のアドベント・カレンダーという暦があります。

年の暮れにおこなわれる仮面劇には、イエスの降誕を記念するストーリーとともに動物や人間の仮面をもちいた儀礼的な要素があって、大地の豊饒を祈願するという農耕儀礼的な性格がみられます。

イエスの復活を祝う復活祭(イースター)の40日前からはじまる四旬節に先だっておこなわれる謝肉祭(カーニバル)は、冬をしめくくって春の大斎を準備する祝祭で、教会暦のなかでもとりわけ民衆的要素のつよい特異な性格をもっています。

イースターには、イースターエッグという彩色された美しい卵が贈り物として交換されたり、子どもたちの遊びにもちいられます。卵は世界でひろく生命の再生を象徴するとされており、それがイエスの復活のさいにもつかわれています。


ヨーロッパの人びとの生活のなかに、キリスト教以前の信仰と習俗がいまもなお生きつづけていることを、展示を通して理解していただけることでしょう。

展示担当/新免光比呂

月刊みんぱく2003年4月号より転載