国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

企画公演「みんぱくミュージアム劇場─ からだは表現する」

みんぱくミュージアム劇場

INDEX 実行委員長挨拶 ミュージアム劇場図

みんぱくミュージアム劇場 開演にあたって
実行委員長 野村 雅一(民族学研究開発センター)

肖像写真  世界はふるくから劇場にたとえられてきました。わたしたちひとりひとりが毎日それぞれの役を、それもしばしば何役をも演じ、自己を表現するいわば相互演技の場であるからです。その意味で、世界は舞台、みんな役者というのはいまもかわらぬ真実といえるでしょう。いや、男と女、年齢、地位などのちがいがあいまいになった今日、その比喩はいっそう切実な現実味をおびつつあるようにさえおもえます。

 ところで、人間のあらゆる演技、自己表現の原点は身体にあります。その身体はわたしたちにとってもっとも身近で親密な存在です。というより、わたしたちの存在そのものです。しかしまた、身体はわたしたちにとって、あんがい疎遠な存在でもあります。うまく動いてくれているかぎり、ふだんそれがあることさえ意識しないことがおおいのも事実でしょう。ほとんどの人が自分の立ち方、歩き方、すわり方、食べ方などをよく知らないのではないでしょうか。世界は人びとの相互演技の舞台だといいましたが、日常の自己演技は習慣化されてしまっているからです。

 わたしたちの日常生活のそうした習慣的自己演技については、わたし自身もこれまでいろいろな場を借りて書いてきました。それらは、いうならば世界劇場の素人芝居論でした。

 そこでこのたび、きびしい職業的訓練を経て、高度な演技術、表現術を文字どおり体現する国内外の第一級のパフォーミング・アーティストたちをまねいて、公演をつうじて身体表現の可能性とエッセンスをかんがえてみようというのが「みんぱくミュージアム劇場-からだは表現する」のねらいです。わたしたちの実人生にもおおくのヒントをあたえてくれるとおもいます。

 舞台は民博の特別展示館につくられる真紅の円形劇場です。イッセイ・ミヤケの「ボディワーク」展の人形製作などで有名な大野木啓人氏のデザインによる劇場は、幸福感にあふれる空間になりそうです。また、劇場の回廊では民博所蔵の未公開の世界のあやつり人形や、フランスの写真家ベルナール・フォコン氏のあつめたフォコン人形などの展示もおこなわれます。

 しかし、休館日の水曜日をのぞいて連日公演やトークがおこなわれ「みんぱくミュージアム劇場」のホスト(主人)は、なんといってもイタリアの三人の道化師たちです。いかめしい白い道化師、調子はずれのオーギュスト、天衣無縫のクラウンのトリオがわたしたちの身体感覚を世界に解き放ってくれることでしょう。開幕のアーティストは、フランスの現代マイムの祖、エチェンヌ・ドクルの愛弟子だったアメリカ人のトマス・レパート。そのパフォーマンスは、肉体の表現力をあますところなくみせてくれるはずです。そのほか、デンマークのオディン小劇場の女優ロベルタ・カレーリによる俳優訓練の自伝的パフォーマンス、茂山千之丞らの「狂言解体新書」、音楽の身体性を追求する作曲家高橋悠治のひきいるグループ「糸」・・・・・・。ここにはとうてい名前をあげきれないすぐれたアーティストたちの公演とトーク、それにダンスセラピー・ワークショップが用意されています。