国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

特別展「マンダラ ─ チベット・ネパールの仏たち」


マンダラ塗り絵の手引き

早稲田大学非常勤講師
正木 晃  
正木 晃
 
色について
マンダラ塗り絵のサンプル マンダラ塗り絵は、ふつう五色ほどの色を選んで塗っていただきます。色の選び方は塗る方の自由ですが、歴史上のマンダラが赤・青・黄・緑・白の五色で塗られている場合が多いので、それにならうのが良いかもしれません。この五色ですと色と色の対比が明確ですので、完成したときに、くっきり鮮やかな感じになります。
しかし、これはあくまで一つの事例に過ぎず、必ずしもこうする必然性はありません。そのときの気分で、色を選んでいただいて、まったくかまいません。むしろ、そうしたほうが、塗る方の心身の状態を如実に表現することになりますので、かえって良いと思います。
気分と色の選び方の間には、おそらく何らかの相関関係があるはずです。少し例をあげてみましょう。
気分が高揚しているときは、当然ですが、赤系や黄系が多くなります。色そのものの彩度や明度も高くなります。さらに赤系や黄系と鮮やかなコントラストを示す系統の色が、補完的な色として選ばれる可能性が高くなるでしょう。したがって、マンダラ全体としてみた場合も、コントラストが強くなるはずです。
反対に、気分が沈んでいれば、はやり沈んだ感じの色、たとえば青系や緑系の色が多くなる傾向があります。色そのものの彩度や明度も低くなります。さらに落ち込んでいれば、茶・灰などの、いわゆる無彩色が多くなります。また、色の数が少なくなる可能性があります。したがって、マンダラ全体としてみた場合も、コントラストは弱くなるはずです。
要するに、以上の事例は気分が色を選ぶことを示しています。ということは、この論理を逆転させると、どんな色を選んだかで、そのときの気分をある程度まで客観的に把握することが可能になるはずです。ときには、身体の状態を知る手助けになるかもしれません。
たとえば、気分はハイなのに、塗り終わったマンダラのコントラストが低いときは、心のどこかにハイになりきれない領域があることになります。そういうときは、きっと心配事がひそんでいます。もしかしたら、身体の状態が少しバランスを崩しているのかもしれません。ちょっと注意して、無理をしないようにしてください。

形について
マンダラ塗り絵は、基本的に対称性を重視して作成してあります。ですから、ごくふつうに塗ってゆけば、離れて見たとき、対照的な線や図形が浮かび上がってくるはずです。またマンダラのパターンによっては、螺旋や渦巻きをはじめとして、エネルギーというか勢いというか、何かしら力を感じさせる形が浮かび上がってくることもあります。ときには、マンダラの中心部が盛り上がってきたり、その逆に沈み込んでゆくような感じが出てくることもあります。
マンダラ塗り絵のサンプル 次は、注意すべき事例です。実際には滅多にありませんが、もし対称性がほとんど感じられなかったり、いちじるしくバランスの崩れた線や図形が浮かび上がったり、あるいは力が全く感じられないようなときは、心か身体のいずれかに、ときとしては心と身体の両方に、ふつうとは異なる状況が生まれている可能性があります。そういうときは、ご自身の心身に十分な注意をなさってください。
もちろん、美的なセンスから、意図的にバランスを崩して色を塗る場合は、その限りではありません。
ただし、意図的にバランスを崩した場合と、意図せずに結果的にバランスが崩れてしまった場合では、塗り終わったマンダラに明らかな違いが出ます。意図的にバランスを崩した場合は、表面上のバランスは崩れているように見えても、それを補う何かがマンダラの上にあって、変な言い方で恐縮ですが、バランスが崩れていながら安定感があります。しかし、意図せずに結果的にバランスが崩れてしまった場合は、いいようのない違和感や不安定感が出てきてしまいます。それは誰が見ても、はっきりそうわかるものです。

最も大切なこと
マンダラ塗り絵のサンプル 以上の点は、あくまで一般論として、そう言えるというまでで、例外はいくらでもあります。したがって、これまで述べてきたことにこだわる必要はありません。
それよりずっと大切なことは、マンダラ塗り絵を継続することにあります。週に一度くらい、土曜日なら土曜日と日を決めて、長期間塗り続けてみてください。
そうしているうちに、いつもとは違う色や形がマンダラに出てくることがあります。そういうときは、心身の深いところで、ふつうとは異なる何かが誕生したり進行しようとしている可能性があります。
むろん、その「何か」は、良いものもあれば、良くないものもあるかもしれません。いずれにしても通常とは異なる状態が心身に生じようとしている可能性があるのですから、心身ともに用心しておくほうが良いと思います。
マンダラ塗り絵において最も意味あることは、みずからの内側の奥深くに潜んでいて、ふつうの手段ではなかなか把握できない「何か」を、目に見えるものにできるかもしれないという点です。この点を十分に理解していただき、塗り絵を続けていただきたいと思います。