国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。
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特別展「今和次郎採集講義─考現学の今」 展示場案内

特別展「今和次郎採集講義─考現学の今」
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展示場案内図
テーマⅠ 採集講義
セクション1
農村調査、民家研究の仕事
特別展「今和次郎採集講義─考現学の今」
「雪に埋れる山の村の家(新潟県中頸城郡関川)」(今和次郎、1917年)工学院大学図書館所蔵
今和次郎は、卒業後に助手に就いた早稲田大学建築科の佐藤功一を介し、柳田國男や農務官僚の石黒忠篤らが作った、農村住宅調査を目的とする「白茅会」に参加、全国各地から満州、朝鮮半島まで調査した。スクラップブック「見聞野帖」にまとめられた民家や屋内の生活用具、周囲の自然環境の詳細なスケッチには詩のようなメモが添えられ、人々に対する温かい眼差しや、今後の住居がいかにあるべきかという問題意識が窺える。それらを基に、名著『日本の民家』を著した。
セクション2 
関東大震災-都市の崩壊と再生そして考現学の誕生
特別展「今和次郎採集講義─考現学の今」
「東京銀座街風俗記録統計図牽引」(今和次郎、1925年)工学院大学図書館所蔵
1923年の関東大震災を契機に、今の視線は地方から都市へと向かう。瓦礫からありあわせの材料でバラック住居を作り始める人々の様子を詳細に記録する中で、未来を生き抜こうとする人々のエネルギーを見出した。また、仲間と始めた、バラック店舗等を装飾する「バラック装飾社」活動には、人々に寄り添い新しい時代を歩もうとするエネルギー溢れる造形表現が窺える。これら活動の中から、生活の変化をつぶさに記録し、これからの生活のあり方を考える「考現学」が生まれた。
 
セクション3 
建築家、デザイナーとしての活動
特別展「今和次郎採集講義─考現学の今」
「渡辺甚吉邸の椅子」(今和次郎、1934年)早稲田大学理工学術院創造理工学部所蔵
バラック装飾社の活動に関し、空間への人生生活を表現する建築設計において装飾が重要だ、と指摘した今の考えはその後も一貫している。関東大震災後の復興事業、東北地方の農村更正・振興のための東北セツルメント運動への関与、大越村娯楽場、秋田県立青年修練農場などは、近代化の中で地域が抱える問題への回答や提言であり、合理的・効率的な建築提供のための標準設計の仕事も、今が生涯取り組んだ農村の生活改善をすまいから見つめた例だ。設計した自邸や個人邸などにも、身の回りから考えるその人らしさが見て取れる。
セクション4 
教育普及活動とドローイングのめざしたもの
特別展「今和次郎採集講義─考現学の今」
「新時代の生活方向 家庭の各員の生活マヂノ線を防備しませう ②主人」(今和次郎、1940年)工学院大学図書館所蔵
今は、早稲田大学で建築科の科目全般を60年近く指導したほか、多くの大学の教壇に立ち、建築や装飾デザインに加え、学問としての家政、生活研究へと講義の幅を広げた。戦前、農村の住宅や生活改善を科学的に訴え、戦後は民主化の流れの中、教養文化も重視した近代的で総合的な生活改善を説いたが、それを分かりやすく伝えるのに今の卓抜したドローイングは重要だった。また、学生時代に手がけた舞台美術や衣装考証を契機とする服装研究からは、西洋服装史に関するスケッチや版下、日本の農衣のスケッチが数多く生まれている。
 
テーマⅡ 衣装・ファッション・世相の今昔
セクション1
岡本信也・岡本靖子氏の「超日常観察記」
特別展「今和次郎採集講義─考現学の今」
「銭湯で見た下着」布絵(岡本信也・岡本靖子)
岡本信也・岡本靖子の両氏が行ってきた考現学的な調査記録の一端を、スケッチに基づいて制作されたタペストリーなどを通して紹介する。疑問と好奇心から始まる考現学的調査は、誰でも取り組むことができる研究の始まりである。
セクション2
「田中千代コレクション」と洋装史
特別展「今和次郎採集講義─考現学の今」
昭和初期のエレベータ係の制服(右)三越百貨店、(左)大丸百貨店 みんぱく所蔵
日本の洋装導入における先駆者だった田中千代が世界各地で収集した衣服関連資料群約4,000点が、氏の没後2000年にみんぱくに寄贈された。今和次郎が考現学を創始した関東大震災後、女性洋装の普及に貢献したのは職業婦人の制服だったが、田中千代コレクションからいくつかを紹介する。
あわせて、NHK朝の連続テレビ小説「カーネーション」の中で使われた衣装3点も紹介する。
 
テーマⅢ 住まいとその環境の記録・研究・再現
セクション1 「大村しげコレクション」から
町家ぐらし家財道具の一切しらべ
特別展「今和次郎採集講義─考現学の今」
大村しげの暮らしたナカノマ
京都の随筆家、大村しげの家財道具一切がご本人の遺志により2000年にみんぱくに寄贈され、4年間をかけた共同研究(代表:横川公子)で約15,000件の資料が調査された。この共同研究は、各モノ資料に関する大村しげ本人の記述と突き合わせる考現学的な「一切しらべ」である。
セクション2
世界のものしらべ
特別展「今和次郎採集講義─考現学の今」
韓国生活財データベースの画面
●マダガスカルの家財道具一切しらべ
パノラマ合成映像を索引として、マダガスカルの住まいの調査記録を紹介する。
●ソウルスタイル・李さん一家の家財道具一切しらべ データベース
特別展「2002年ソウルスタイル」で協力いただいた李さん一家(夫婦と夫の母、小学校6年の息子と小学校4年の娘の5人)の全生活財7,827件を網羅し、その配置と入手方法などの基本情報と、モノにまつわる家族の思い出を記録したデータベースである。
 
セクション3 
モンゴル・ゲルの家財道具一切しらべ
特別展「今和次郎採集講義─考現学の今」
2011年のゲル(堀田あゆみ撮影)
梅棹忠夫らが1944年に行ったモンゴルのゲル調査時のスケッチと、70年後に若い後継研究者、堀田あゆみが行っている現代の家財道具一切しらべを比較する。そこから、モンゴルの人々の生活の不易と変化が見えてくる。
セクション4 
縮尺1/10民家模型製作のための一切しらべ
特別展「今和次郎採集講義─考現学の今」
「スケッチから起こした二棟造りの立体図」TEM研究所「二棟造りの間取りと使い方」『季刊民族学』2号(1977年12月)から
みんぱく展示場開館に先立つ1974年、日本の文化で展示する縮尺1/10の民家模型を製作するために、選ばれた4軒の民家と家財道具の詳細な調査がTEM研究所によって行われた。生活文化が変わろうとする高度経済成長期の生活を徹底的に記録した学術資料である。