国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

特別展「工芸継承―東北発、日本インダストリアルデザインの原点と現在」   はじめに

はじめに

明治時代に入り、政府は殖産興業・輸出振興政策の一環として、積極的に日本の工芸技術を世界に向けて発信し、世界的にも大きな評価を得るまでにいたりました。その後、時代を経て、昭和3年に国立工芸指導所が国内で初めて宮城県仙台市に設置され、工芸の近代化、産業化の推進と東北地方の工芸業界の発展をめざした活動がおこなわれていきました。そして、工芸界、デザイン界をリードする組織として、剣持勇、豊口克平などを輩出し、昭和40年代まで活動を続けました。これらの活動はまさに日本におけるインダストリアルデザインの原点の活動の一つとして位置づけることができます。
本特別展示では、こうした国立工芸指導所で試みられた日本のインダストリアルデザインの出発点となった伝統工芸品に注目し、この素晴らしい技術を次の世代にどのように継承するのかについて考えるものです。ここでは、現在、工芸界で活躍する若手職人やデザイン・工芸に関心を持つ学生たちとのワークショップをとおして、彼らの視点から、くらしを豊かにする新しい現代の工芸について議論しました。また、連綿と受け継がれ、生み出された工芸技術を大学や博物館でどのように継承するのかについて検証するとともに、家業として受け継がれる工芸技術の技術伝承の実際についても注目しました。
さまざまな産業界において、国際競争力が試されるなか、日本の得意分野を生かした技術開発が求められるようになっています。ここでは機能性はもちろんのこと、世界で通用するデザイン力も求められています。国立工芸指導所が目指した工芸品は、そうした機能性、デザイン性を追求したインダストリアルデザインであり、まさに先駆的な活動であったといえます。
世界にほこる日本の工芸品が、国立工芸指導所の精神を受け継ぎつつ、どのように世界に挑戦するのか。このような点に着目し、これまでの工芸、これからの工芸を考えてみたいです。


   盛器
  (東北歴史博物館蔵)


   玉虫塗調味料入れ
  (東北歴史博物館蔵)