国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

第42回新着資料展示「マンダラ-仏たちの住む空間」

ポン教のマンダラ


 ポン教は仏教伝来以前から広くチベット文化域に信仰されている宗教で、土着の宗教要素を多くとり入れながら、仏教に対抗した独自の理論体系を創り出した。日本の宗教にたとえるとすれば、修験と古神道の一部に似ている。
 ポン教には仏教の仏たちの体系を意識した、独特の神々の体系がある。神々の住む宮殿を描いたマンダラの伝統は、仏教と同様、ポン教にも保持されてきた。現在、約130種のマンダラが確認されている。

 カトマンドゥのポン教寺院ティテンノルプツェの本堂の天井には20種のマンダラが描かれている。写真のマンダラはもっともよく知られたもので、霊魂が死後の世界を旅するとき、悪い状態(例えば獣、阿修羅)にならないように祈るために用いられる。マンダラの中の神々の名前は仏教の仏たちとは異なっている。
 マンダラの瞑想の中で次のように神々が立ち現れてくる。
 宮殿の中央に卍の滴があり、それを含む光のテントがあり、その中で行者は日輪、月輪、蓮華の上に座っていると考える。さらに、自身の心からAという文字が1つ日輪・月輪・蓮華の上に放たれる。そのAという文字から光明が出てすべての衆生の障りを除く。それらの光明は集まって、文字Aに溶けて、光明の中に入っていく。
 
※画像をクリックすると拡大画像がご覧になれます
 
(1)飾りのない裸体の一面二臂の普賢(クントゥサンポ)が結伽趺座しているのを観想する。主尊の心から光明が四方にある四花弁に出ていき、
(2)東にユムチェンサティクエルサン
(3)北にラチェンシェンラオーカル
(4)西にシパサンポブムティ
(5)南にトンパシェンラプミオ
となる。彼らはそれぞれ持物として鏡、鈎、幡、挟み板を持つ。また、主尊の心から光明は外へ順に放たれて、以下の諸尊となる。
(6)サンワガンリンは、身色が紫、火水の幡を持つ。
(7)ムチョデムトゥクは、身色が白、持物として甘露の入った瓶を持つ。
(8)ティサンランシは、身色が緑、宝と本を持つ。
(9)サンワドューパは、身色が黄、金のドラムと鈴を持つ。
(10)チェギャルパルティは、身色が青、刀を持つ。
(11)イェシェンツクピュは、身色が白、ヴィーナーを持つ。
これらすべては究竟身(報身)の分位にあり、それぞれのすがたが明らかとなる。
また、主尊の心から光明が外へ順に放たれて、以下の諸尊と成る。
(12)イェシェンナムカーパタンチェンは、身色が白、天空の飛幡が持つ。
(13)イェシェンキュンキリュツォンは、身色が赤、ガルダ鳥の幡を持つ。
(14)イェシェンゴーキパルダプチェンは、身色が緑、ハゲタカの羽を持つ。
(15)イェシェンマチェーデムガンチェンは、身色が青、孔雀の羽を持つ。
(16)イェシェンソウォワルシェチェンは、身色が赤、カラスを持つ。
(17)イェシェンペルソドゥンチェチェンは、身色が緑、剣の柄を持つ。
(18)イェシェンセーダードゥンユクチェンは、身色が赤、ホラ貝の付いた棒を持つ。
(19)イェシェンガトンリチェムパチェンは、身色が黄、ドラムを持つ。
(20)イェシェンシャンティロナムタクチェンは、身色が青、鈴を持つ。
(21)イェシェンドゥンパルポパルチュンチェンは、身色が白、ホラ貝を持つ。
(22)イェシェンチェギャルゴーシュチェンは、身色が青、白いA文字を持つ。
(23)イェシェンヤンギャルドゥクラクチェンは、身色が白、真珠の珠子を持つ。
(24)イェシェンチューパカラクチェンは、身色が青、甘露の瓶を持つ。
彼らのすべては一面二臂で、究竟身(報身)の分位にあって、それぞれの位置で姿を現している。
また、主尊の心から光明が四門に放たれて、
(25)東門にソオウグ
(26)北門にセマウグ
(27)西門にルチョデグ
(28)南門にムンポチェグ
がいる。彼らはすべて身色が濃青、九面十八臂で、さまざまな持物を有する。