国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく世界の旅

アメリカ先住民ホピ(4) 『毎日小学生新聞』掲載 2015年1月31日刊行
伊藤敦規(国立民族学博物館助教)

お父さんが作ってくれた家の模型を持つカイさん(手前)と家族
保留地の伝統的な生活を大切に

アメリカ先住民の多くは保留地で暮らしています。アリゾナ州には21、アメリカ全土では500以上あります。しかし、保留地を離れて都市で生活する人もいます。その理由はさまざまですが、雇用や教育の機会を求めて移住する場合が多いようです。都市で生まれ育った子どもたちにとって、保留地での生活は楽園のように映ります。特に夏休みにしか帰郷できない小学生にはその思いは格別のようです。

大好きな保留地

フラッグスタッフの小学校に通うカイさんは現在10歳。1学年の児童数が100人ほどの学校で、生徒のほとんどは白人。その他にメキシコ系と先住民の児童がいます。カイさんと同じホピの児童は5人です。お母さんは法律を学ぶ大学生。お父さんはカチーナという精霊の人形を作るプロの木彫作家で、フラッグスタッフやセドナといった都市の画廊に作品を売り、生計を立てています。


小学校で発表するためのカイさんの原稿。「ホピの人々」のタイトルで、保留地での生活について、びっしり書かれています

ある日、私が家を訪ねてみると、お父さんが、ホピの人々が暮らすプエブロとよばれる家の模型を作っていました。カイさんが学校で自分の文化について発表することになったので、その手伝いをしているとのことでした。

保留地で暮らしたことのないカイさんは、親戚や友人がたくさんいて、大自然が残り、儀礼もたくさん行われる保留地の生活が大好きなのだそうです。ホピの生活を知らない白人の友達のために用意した原稿には、都市とは異なる生活がびっしり書かれていました。

カイさんの両親は保留地で生まれ育ちました。彼らにとって保留地での生活はあたりまえで、土地や生活スタイルがとても大切だと自覚しています。都市で生まれ育った娘を、できる限り保留地に連れて行き、そこでの伝統的な生活を体験してもらいたいのだそうです。


保留地の思い出が詰まった都市の家。家の中にはお父さんが作ってくれた人形がたくさん飾られています。
 

一口メモ

「先住民保留地」
アメリカは保留地での、先住民の(法律を作る)立法・(政治を行う)・行政・(裁判をする)司法の三つの権利を認めています。先住民が運営する裁裁判する判所や役所、議会、独自の警察や消防、学校などがあります。

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