国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく世界の旅

点字で世界旅行(1) 『毎日小学生新聞』掲載 2015年2月7日刊行
広瀬浩二郎(国立民族学博物館准教授)

点字を指先で読む筆者
さわる文字「点字」の起源

みなさんは点字を知っていますか。最近では、授業で点字の読み方を学ぶ学校が増えています。駅の券売機、洗濯機や電子レンジのパネルで点字を見たことがある人も多いでしょう。

点字の中に考えるヒント

僕は中学1年生、13歳のときに目が見えなくなり、盲学校で点字の教科書を使って勉強しました。あれから30年。今では「ああ、点字は便利だなあ」と感じています。小学生のころは少し目が見えていたので、教室のいちばん前の席に座って、単眼鏡(片目で遠くを見るためのレンズ)で黒板の字を一文字ずつ読んでいました。点字を覚えるまでに少し時間がかかりましたが、点字に慣れれば真っ暗なところでも、寝転んでいてもすらすら読めるのだから楽ですね。


ルイ・ブライユと彼が考えた点字の一覧表=ルイ・ブライユ記念館提供

もちろん点字は、目の見えない人が指で読むためにつくられた点の文字ですが、この「さわる文字」には、いろいろなことを考えるヒントがふくまれています。今月は「集める」「育てる」「つくる」という三つのことばを手がかりに、点字で世界、そして日本各地を訪ねてみましょう。

点字をつくったのはフランス人のルイ・ブライユ(1809~1852年)です。彼は3歳のときに目が見えなくなり、パリの盲学校で勉強します。卒業後は、その学校の先生になりました。彼は15歳のときに、六つの点の組み合わせでアルファベットや数字を表す「点字」を思いついたといわれています。僕がはじめて点字にふれたとき、「さわって読むのは難しいけど、点字の仕組みはわかりやすい。これを考えた人は頭がいいなあ」と感じました。たしかに、ブライユさんは天才ですが、だれにとってもわかりやすい点字をつくるために努力を続けたことも忘れてはならないでしょう。


ルイ・ブライユが生まれた家。フランスのクーブレ村にあるこの家は現在、記念館として利用されています=ルイ・ブライユ記念館提供

世界中に広がった点字

フランスで発明された点字はヨーロッパ、アメリカに広がり、今では100種類以上のことばを点字で表すことができます。明治時代のはじめごろ、日本ではアルファベットの点字が使われていましたが、日本語の点字がほしいという声が高まり、研究がスタートします。アルファベットに比べ、日本語の五十音は数が多いので、点の組み合わせを当てはめるのがたいへんですよね。日本語の点字は1890年に決められました。それから120年が過ぎた今、僕はこの原稿を点字で書いています。もしも点字がない時代に生まれていたら、僕はどうやって学校で勉強したのでしょうか。あらためて、ブライユさんに「ありがとう」と言いたくなってきました。

 
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