国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく世界の旅

アラブ世界(1) 『毎日小学生新聞』掲載 2015年5月2日刊行
菅瀬晶子(国立民族学博物館助教)

シリアのウミマイヤド、モスク。イスラムの礼拝所であるモスクは、人々の憩いの場でもあります。
国や地域ごとに多様性

アラビア、アラブ人ときいて、どんなイメージを思いうかべるでしょうか。石油がたくさん取れるところ。砂漠のなかに超高層ビルが立ち並ぶところ。住んでいるのは大金持ちか、ラクダや羊を連れている遊牧民で、男の人も女の人もスカーフをかぶって、かみの毛をかくしている。最近ニュースでよく取り上げられているけれども、なんだか戦争ばかりしていて、こわいイメージ。そして、そこに住んでいる人たちはイスラムという、日本人にはよくわからない宗教を信じている。今年のはじめに内戦中の国シリアで起こった、イスラム過激派組織「イスラム国」(IS=Islamic State)の日本人人質殺害事件は、まだみなさんの記憶にも新しいはずです。

アラブ世界で共通するのは、アラビア語を国語とし、多くの国でイスラムを国の宗教としていることです。でも。実はアラビア語にはとてもたくさんの方言がありますし、イスラムの中にもさまざまな解釈のちがいがあります。

イスラムだけではない

それに、あまり知られていないのですが、イスラム以外の宗教、たとえばキリスト教やユダヤ教を信じる人びとが暮らしています。国や地域ごとに多様性がみられ、貧富の差も大きい。それがアラブの国々の特徴です。石油や商業で巨万の富を築いている国がある一方で、戦乱のためにみなさんと同じ年ごろの子どもたちが学校にも行けず、明日生きていられるかどうかさえわからない国も多いのです。ISのように、長引く政情不安に乗じ、イスラムの教えを勝手に都合よく解釈して、自分と意見の合わない人たちや、イスラムではない宗教を信じている人々を迫害する集団もいます。けれどもそれは、アラブの国々のすべてではありません。

これから3回に分けて、「イスラムだけではない、戦乱ばかりではないアラブ世界」の話を、私が主に調査をしている、パレスチナやシリア、レバノンのことを中心に、ごしょうかいしていこうと思います。

 

神(アラビア語でアラー)への祈りのことばをあしらったランプシェードなどが売られているエジプト・カイロの市場

パレスチナの農民たち。これから農作業にで出かけるところ。
 

一口メモ

アラブは、東はイラクから西は北アフリカのモーリタニアまでをさします。国として数えれば20か国以上、人口は3億5000万人にものぼります。

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