国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく世界の旅

民族音楽(1) 『毎日小学生新聞』掲載 2015年7月25日刊行
寺田吉孝(国立民族学博物館教授)

アメリカでも太鼓は人気です=ロサンゼルスで
入手困難な和太鼓の材料

お祭りの季節になると、どこからともなくドンドコドコドコって聞こえてくる和太鼓の音。なんだかわくわくしませんか。大きな太鼓を近くで聞くとドーンという地ひびきのような音が体にひびいてきます。音は耳だけで聞くのではありません。

喝采をあびる太鼓の打ち手と比べると、太鼓を作る職人は目立たない存在ですが、誇りをもって作っています。しかし、最近は大きな悩みをかかえています。材料の調達がどんどん難しくなっているからです。太鼓の胴はケヤキなどの硬い木をくりぬいて作りますが、伐採しすぎたために最近では大きな木が少なくなってしまいました。


この大きな太鼓の胴はアフリカ産

胴に張ってあるのは牛の皮です。大きなバチで力いっぱい打っても、簡単には破れない牛の皮ってすごいですね。でも、太鼓に適した皮を見つけるが難しくなってきました。農耕が機械化されるまで、牛は大切な労働力でした。そのため、大人の牛になるまで解体されることが少なく、皮も大きく厚かったのですが、最近は食肉用がほとんどで、比較的若いうちに食肉処理されます。そのため大きな太鼓を作るのに必要な大きくて厚い皮が足らないのです。

大きさも 質も…

問題は大きさだけではありません。日本では脂ののった肉が好まれる(値段が高い)ので、皮にも脂が多く含まれるようになりました。このような皮はいい音が出ないので、太鼓には適していないのです。

このように、機械化や食生活の変化が、太鼓作りにも大きく影響しています。最近では、大きな木はアフリカからの輸入にたより、牛の皮もニュージーランドなどの外国産が増えました。日本の楽器と思われている和太鼓は、国産の材料だけでは作れない時代になっているのです。


太鼓の皮は木のわくにはり付けてかわかします。
 

一口メモ

太鼓は材料の入手は難しくなりましたが、演奏は世界中に広がっています。1960年代から海外に紹介され、現在では欧アメリカやヨーロッパを中心に数百のグループがあります。国外でも「TAIKO」で通用するようになってきました。

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