国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく世界の旅

民族音楽(4) 『毎日小学生新聞』掲載 2015年8月15日刊行
寺田吉孝(国立民族学博物館教授)
受けつがれる「クリンタン」

フィリピン・ミンダナオ島のクリンタン演奏

フィリピンの南部にミンダナオという島があります。フィリピンでは国民の9割以上がキリスト教徒ですが、この島にはイスラム教を信じる人たちが数多く住んでいます。かれらが演奏する音楽に「クリンタン」があります。

クリンタンは、ゴングと太鼓を組み合わせた打楽器の音楽です。結婚式など人が大勢集まるところで演奏しますが、演奏する人と聞く人が分かれているのではなく、誰でも参加できます。

以前は、若い男女が一緒にできる数少ない活動だったので、お気に入りの彼、彼女の気をひくために一生懸命、練習したそうです。また、言葉のイントネーションをまねて音楽を演奏し、メッセージを送ることもできますが、最近の若者たちはこのすべをなくしてしまいました。

この地域は1970年代ころから政情が不安定で、フィリピンから独立を目指す武装集団が政府軍と争っています。最近では麻薬を栽培するグループも現れ、縄張り争いをしています。たたかいからのがれるために多くの村人が他地域に移り住みました。以前は、村ごとに演奏する曲やスタイルが違っていましたが、村人がばらばらになったため、村の音楽が失われつつあります。少しでも記録に残すために、みんぱくも取材班を現地に送って映画を作りました。

海外に住むフィリピン人の間で

クリンタンは、本国フィリピンでは伝承が難しくなっていますが、海外に住むフィリピン人の間で受け継つがれています。60年代に北アメリカに紹介されて以来、現地で生まれ育ったフィリピン系の若者たちに注目されてきました。グループもたくさん結成され、多文化フェスティバルなどでフィリピンを代表する音楽の一つとして紹介されています。


楽器で遊ぶ子どもたち

クリンタンはアメリカに住むフィリピン系の住民にも人気です
 

一口メモ

東南アジアでは、ゴングには特別な力が備わっていると考えられおり、神や精霊に合図を送ったり、お願いごとをしたりするときに演奏されます。青銅のような高価な金属で作られ、財産としても大事にされています。

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