国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく世界の旅

中国(1) 『毎日小学生新聞』掲載 2016年4月9日刊行
卯田宗平(国立民族学博物館准教授)
水にもぐって魚をとるカワウ

湖に放たれたカワウたち。これから漁が始まります。大勢の漁師が一緒に漁をするときは100羽以上のカワウを同時に使うこともあります。

中国には長江とよばれる広くて長い川が流れています。その長江の中流域に、中国で最も大きな淡水湖であるポーヤン湖があります。

この湖には100種類以上の淡水魚が生息しており、地元の漁師たちは豊かな魚資源を求めて、さしあみや投あみ、定置あみを使った漁業をおこなっています。このほか、カワウという、水中にもぐって魚をとる鳥を利用したウ飼い漁を続けている人たちもいます。今回紹介する胡さんもそのひとりです。

人間によってヒナの段階から育てられたカワウは、人間のことを親と思っているのか、にげません。胡さんは26羽のカワウを舟の止まり木のうえで飼育しています。

漁の前に、胡さんはカワウの首もとに稲わらを結びます。こうすることで、カワウがのみこんだ魚はのどにたまります。 舟の上からカワウを湖に放ち、漁が始まります。カワウが魚をとると竹棒で舟にもどし、魚をはきださせ、そしてまたカワウを湖に放ちます。胡さんは毎日6時間以上、この作業を続けます。

漁が終わると、水面にいるカワウを竹棒で1羽ずつ舟にもどします。このとき、すべてのカワウをもといた場所に戻さなければなりません。もし間違えると、前後左右のカワウが大げんかを始めてしまうからです。

このため、胡さんはすべてのカワウを記憶しています。カワウを1羽ずつ正確に見分ける技術は、ウ飼い漁を半年以上続けないと身につかないといわれています。


カワウがとったコイを舟の上に持ち上げる漁師。ウ飼い漁では大小さまざまな魚がとれます。

漁を終えた後、すべてのカワウをもとの止まり木に戻します。
 

一口メモ

ポーヤン湖の面積は雨季に最大で3,000平方キロメートル以上になります。一方、乾季には水位が5メートル以上も低下し、面積は100平方キロメートル前後になります。

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