国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく世界の旅

ベトナム(2) 『毎日小学生新聞』掲載 2016年5月14日刊行
樫永真佐夫(国立民族学博物館教授)
力もちで働き者:黒タイの水牛

水牛を家につれて帰る黒タイの少年たち

みなさん、動物に乗ったことありますか。「馬に乗ったことがある」という人がいちばん多いかもしれませんね。
同じことをベトナムの子どもたちにきけば、水牛に乗った子がたぶんいちばん多いでしょう。

最近はベトナムも都市化が進んで田んぼが減り、水牛に乗ったことがあるという子も減りました。でも、少数民族の黒タイなどの村に行くと、まだたくさん水牛を飼っていて、田んぼを耕すなど、働いていますし、子どもが水牛に乗っているのも見ることがあります。


黒タイの夫婦によって、水牛が農耕具をひいて代かきしています

水牛は、仕事がない日の日中は戸外に放され、草を食べたり、ねそべったり、水浴したりしています。でも、よその家の垣根や田畑をあらしたりしたら大変なので、飼い主の家族の子どもがよく見張りをします。おとなしくて力もちの水牛は、子どもたちの大好きなお友だちなんですよ。
でも、いったん興奮して暴れ出したら、大人たちでも水牛の興奮がおさまるまで、見ているしかありません。


黒タイの村人は、収穫後の田んぼに水牛を放ちます。エサになる草があるし、ふんが肥料になるからです

たとえば日本だと、高級車をもっているとじまんしたいし、家族のたいせつな財産にもなりますよね。黒タイの村の家族にとっては、力もちで働き者の水牛こそじまんであり、大切な財産です。しっかり田んぼを耕してくれる水牛のおかげで、おいしいお米がたくさん食べられるわけですからね。
だからとても大事にされていて、悪い精霊にとりつかれて病気にかかったりしないように、おまじないをしてあげたりもするんですよ。

 

一口メモ

黒タイはベトナム西北部の山間盆地で、田んぼをつくって暮らす、少数民族です。ベトナム語よりタイ語に近いことばを話します。

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